約 739,293 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5895.html
前ページ次ページアクマがこんにちわ カチャリ、小さな音が静かな空間に響く。 かつて人修羅と共に戦った『だいそうじょう』は、人修羅にこう語った。 『汝中道を歩むべし。静寂を求む者は静寂に惑い、喧噪を求む者は喧噪に惑う……』 静かな空間では、その静かさのせいで小さな音にも惑わされる、自分の呼吸や心音にすら惑わされるという。 それでは喧噪の中にいるのと差はない。 大僧正の言葉を思い出しつつ、人修羅はびみょーな力加減でナイフを引く、柔らかく煮込まれた肉から動物性とは思えぬほどさらりとした肉汁が流れた。 その肉をフォークで刺そうとして、カチャリとまたもや音を立ててしまった。 「……………」 そーっとルイズの顔色を伺うと、ルイズは人修羅のことなど気にせず朝食を食べていた。 ほっとしたのもつかの間、フォークの先端に刺さった肉を口に運ぼうとした時、ぼちゃっ、と皿の上に肉が落ちた。 よく見るとナプキンの上にソースが少しだけ飛び散っている。 ヴァリエール家の朝食は、ものすご~く胃に悪かった。 ◆◆◆ 「俺さ、箸しか知らないんだよ」 「ニャ」 「フォークなんてグラタンとかスパゲッティの時しか使わないしさ」 「ニャ」 「テーブルマナーのテの字も知らないんだよね」 「ニャ」 朝食の後、人修羅は屋敷の裏庭に案内してもらい、猫を相手に黄昏れていた。 黒猫はカトレアのお友達らしく、人修羅の言葉に相づちを打つなどして知能の高さを見せている。 「そもそもさ、俺ってただの学生だったんだ。だったんだけどなあ…」 「ニャ」 東京受胎に巻き込まれた時も困惑したが、ルイズに召喚されてからも別の意味で困惑していた。 人修羅は一定の推論を元にカトレアに治療を施したため、研究者肌のエレオノールから決して低くない評価を受けた。 更に、ハルケギニアとは別の体系づけられた文化の出身とあって、ヴァリエール公爵からは気に入られ、『賓客』の扱いを受けている。 一昨日夜は使い魔兼従者扱い。 翌日は医者扱い。 そして今日からは賓客扱いである。 それ自体はとても光栄なことだが、緊張感漂う朝食の席だけは勘弁して欲しかった。 間違いなく胃に悪い。 人修羅は頭に乗った猫を両手で抱えると、向きを変えて顔を見つめた。 「お前だってネズミ捕まえるときは爪を使うのが一番だろ?俺は箸を使うのが一番いいんだ」 「ニャー」 「え?ネズミなんか捕まえない?ご飯はカトレアさんがくれるの?食器は陶磁器? さいですか…」 猫にテーブルマナーで負けた気がして、ヘコんだ。 ◆◆◆ しばらくして猫がどこかに立ち去った後。 人修羅は軽く背伸びをして深呼吸し、裏庭を見渡した。 裏庭は塀に囲まれた長方形の広場で、地面が石畳なのを除けば魔法学院の『ヴェストリの広場』を連想させる雰囲気になっている。 ここに案内してくれたメイドによれば、ヴァリエール家は代々この裏庭で魔法と兵法を研究したとか。 「ミスタ」 ふと、後ろから声をかけられた。 振り向いてみると、そこにはエレオノールとルイズが人修羅を見つめていた。 「ミスタ…って、いや、僕はルイズさんの使い魔ですし、そんな風に言われても…」 「あら、それならばどうお呼びしたら良いかしら」 「人修羅で結構です」 「そう言えば、貴方の国では敬称をあまり用いないのでしたわね。解りましたわ。それでは早速ですが、今日は貴方が指導したという、ルイズの魔法を見せて頂きます」 エレオノールが杖を振ると、10メイルほど離れた場所に甲冑が現れた。 飾り気のない全身鎧だが、鉄製であるらしく、鈍い輝きを放っている。 「ルイズさん、準備はいい?」 「…ええ」 ルイズは緊張気味に答え、杖を構えた。 人修羅はルイズの背後に立つと、両肩に手を乗せる。 「緊張し過ぎ。肩の力を抜いて自然体で立つんだ、前に教えたとおりゆっくりと呼吸してくれ……集中は『する』ものじゃない。既に『集中している』んだ」 ルイズは人修羅に言われたとおり、口から少しずつ息を吐き、次に鼻から少しずつ息を吸った。 じわり、じわりと体が熱くなっていく気がして、自分の姿勢が乱れていることに気づく。 背筋の伸ばし方や、重心の僅かな違いを体が敏感に感じ取り、肉体が最もリラックスできる位置へと矯正されていく。 「…やるわ」 ルイズが呟く。 「解った」 人修羅はそう言ってルイズから離れた。 ルイズが甲冑へと杖を向ける、その距離およそ10メイル。 「ラナ」 杖と甲冑の間に、不可視のフィールドが現れ、空気を包み込む。 「デル」 直径1メイルほどの空気の固まりはその場に固定されながらも運動エネルギーを与えられ、潰された風船のようにぐにゃりと歪んでいく。 「ウインデ!」 パンッ! 乾いた音が、裏庭に響く。 それに一瞬遅れて金属の固まりが石畳の上を転がり、ガシャン、ガラガラと不快な音が響いた。 ルイズは自分の魔法が『爆発』ではなく、人修羅曰く『衝撃波』となって発動したことに一種の満足感を感じた。 が、今は魔法学院ではなく厳しい厳しい姉の前なので、はしゃぐこともできない。 ゆっくりと後ろを振り向いて姉の顔を伺うと、姉はルイズではなく、ルイズが起こした衝撃波の痕跡をじっと見つめていた。 「………今のは『エア・ハンマー』の詠唱ね。でも、何か違うわ」 「!」 ルイズは姉の言葉に背筋を寒くした。 確かに教師の見せる『エア・ハンマー』とは違うので、またもや説教が飛ぶのかと思いこんでしまい、肩が震えた。 「それについて、俺…僕の考えを説明します。そのためにもう一つ協力して貰いたいんですが」 人修羅がさりげなくルイズのとなりに立ち、肩に手を置いた。 ルイズはビクンと肩を震わせたが、人修羅の手の温かさを感じていると、不思議とふるえが収まっていく気がした。 「ええ。何をすれば良いのかしら」 「じゃあ、先ほど飛び散ったこの鉄片に、強力な『固定化』をかけて貰えませんか」 「固定化を?」 「必要なことなんです」 エレオノールはこくりと頷き、人修羅の手に乗った小さな鉄片に杖を向け、詠唱を始めた。 固定化がかけられると、今度はルイズに鉄片を見せる。 「ルイズさん、今度はこの鉄片を砕いてくれないか」 「これを?」 「ああ、コレを土のかたまりだと思って、『ほぐす』感じでやってくれないか」 「…解ったわ」 ルイズが頷くのを見て、人修羅は鉄片を地面に置き後ろに下る。 その様子を見て、エレオノールは人修羅の態度に感心していた。 エレオノールは何度もルイズの爆発に巻き込まれている、そのためルイズが魔法を使う時には近づかないように心がけている、しかし人修羅は違う。 爆発を全く恐れていない、すべて受け入れてやると言わんばかりの態度で、ルイズに自信を与え続けている。 「もう、羨ましいわね」 エレオノールは、頑なな妹の心をほぐした使い魔に感謝すると共に、ほんの少し嫉妬していた。 ◆◆◆ 何度かの実技を終えたルイズは、精神的にも疲れたのか、うっすらと額に汗を浮かべていた。 ルイズの目の前では、エレオノールと人修羅が地面にしゃがみ、ルイズの行った魔法を検分している。 「これは完全に固定化を解除されているわ、凄い…こんな事までできるなんて」 「こっちは上手くまっぷたつに割れてますが、よく見ると断面が合いません。断面は割れたんじゃなくて消滅してるんです」 「いずれかの系統魔法に特化した例はアカデミーにも記録されていますが、こんな形で固定化を取り除く例は覚えがありませんわ」 「僕が見た限りでは、精神力と集中力は魔法学院の中でトップだと思います。密度が違うんですよ」 「確かに…こちらの鉄片は、中央に小さな穴を開けてありますわね。集中力は目を見張るものがあるんでしょう…ルイズの魔法を『失敗』で片づけるのは愚かでしたわね」 「でもその加減を教えてくれる人が居なかった。爆発を起こすのは風船に水を入れすぎるのと同じだと、誰も指摘できなかったんじゃないですか」 「ええ。お恥ずかしい限りですわ」 散らばった鉄片を人修羅が拾い、ルイズに魔法の指示を与える。 それを何度も繰り返して作られたサンプルの数々、そこにはルイズの魔法がどれだけ特異なのか、また、どれだけ強力なものなのかが示されていた。 エレオノールと人修羅が、サンプルに触れて様々な推論を述べ、意見を交わしていく。 二人とも真剣で、ルイズが口を挟む隙は見つけられない。 それが少しだけ悔しくて、ルイズはため息をついた。 「ルイズさん、疲れた?」 「え! あ、ううん。まだ大丈夫よ」 ピンク色の髪の毛を揺らして直立するルイズに、エレオノールが声をかけた。 「ルイズ、貴方もよく訓練したのね。爆発させずに、微細な加減もできるようになったなんて…よくやったわ」 「え」 ルイズはその言葉に驚き、目をぱちくりとさせた。 (エレオノール姉様が、私を褒めてくれたの?) 「……ま、これで少しは迷惑をかけなくなるでしょうね。修理費用の無心はもうダメよ」 「は、はい」 エレオノールがルイズから視線を外しても、ルイズはきょとんとした表情のままエレオノールを見つめていた。 姉の優しい言葉など、何年ぶりだろうか…… 「それでは、次はルイズの魔法を指導するにあたり、参考になったという、人修羅さんの魔法を見せて頂きたいと思いますわ」 「俺のですか?ここでやると石畳が…」 「ここは練兵場も兼ねておりますから、それぐらいは直ぐに直せますわ」 人修羅はぐるりと裏庭を見渡した。 それなりの広さがあるのは解っているので、後頭部をぽりぽりと掻きながら「仕方ないか」と呟く。 「それじゃあ、これから魔法を幾つか見せます」 「どのような魔法を使うのですか?」 「そうですね…ルイズさんの『爆発』は失敗として片づけられていましたが、僕がこれから使う魔法は、爆発を攻撃に利用するため、範囲を限定して放てるんです」 「範囲を、限定」 「ええ、だいたい直径15メイルを消滅させるんですけど…ま、論より証拠、やってみますよ」 人修羅はそう言うと、十歩ほど前に進んで、虚空に手を向けた。 「 メ ギ ド 」 ◆◆◆ 「おねーさまっ!おねえーさま!」 「はっ!?」 気が付くと私は、ルイズとミスタ・人修羅に腕を掴まれ、体を支えられていた。 「エレオノールさん、大丈夫ですか?」 ミスタが私の顔をのぞき込み、そう聞いてくる。 「あっ、だ、大丈夫ですわ。少し驚いてしまっただけなので」 そう言って一人で立とうとするが、膝が笑っているのか腰が抜けたのか、うまく立ち上がることができない。 ふと、先ほどミスタが放った魔法の痕を見る。 丈夫に作られた石畳には、スプーンでくりぬいた果物のように、綺麗なすり鉢状の穴が作られていた。 直径は15メイルもあるだろう。 ミスタの魔法はルイズの爆発に似ていると聞いたが、実際に見てみるとまるで別物だとわかる。 ルイズの爆発は『危ない!』と思えたが、ミスタの魔法…確か『メギド』だったか、それはとても幻想的で、儚い色の魔法だった。 連想するのは死ではなく、消滅。 この石畳のように、綺麗に消滅できるのなら、私はそれで良いかもしれない…そう思わせるほどの蠱惑的な輝きを放っていた。 「ルイズさん、とりあえず屋敷まで運ぼう」 「う、うん」 魔法の輝きを思い返しているうちに、ミスタは私を軽々と抱きかかえた。 …俗に言うお姫様だっこで。 「…………あ、あの、ありがとう…ございます」 ミスタの手は、強大な魔法を放つとは思えぬほど柔らかく、そして暖かい。 こんなにも胸がドキドキするのは何時以来だろうか、ああ! しかも殿方に抱き上げられるなんて!だめよ妹の使い魔に!私ったら何を考えているの…! エレオノールは、いつの間にか魔法にかけられていた、トリステインの魔法アカデミーですら知らぬ、異国の魔法に。 それは地球で『吊り橋効果』と呼ばれていたとか……。 ◆◆◆ エレオノールを部屋まで運んだ人修羅とルイズは、公爵から直々の話があると侍女に言われ、緊張した面持ちで応接間へと向かった。 魔法学院の学院長室よりも広い応接間は、目立った調度品の数こそ少ない。 しかし壁や天井、暖炉にシャンデリア、テーブルにソファなど、必要最低限のものがすべて最高級品質のもので作られている。 人修羅もそろそろ慣れてきたのか、案内の侍女に導かれるままにソファに座り、公爵を待った。 「ねえ、人修羅」 「何?」 ルイズは人修羅の隣に座り、正面を向いたまま小声で話し出した。 「オールド・オスマンが言ってたわよね。貴方のルーンは『ガンダールヴ』だって」 「そうらしいな。まあ俺にはそこら辺が良くわからないんだが…デルフリンガーの方が詳しいはずだ」 「昔、始祖ブリミルに仕えてたガンダールヴも、貴方みたいだったのかしら」 「どうかなあ」 「どうしてわたしは魔法ができないのか、ずっと悩んでいたわ。みんなと同じ魔法を使いたい、母様、父様、姉様みたいに、ちゃんと魔法を使いたいってずっと悩んでた」 「大丈夫だ。レビテーションだって仕えるようになったじゃないか、まだ力みすぎだけどさ」 ルイズは、しばらく黙っていた。 が、不意に人修羅の方に顔を向けると、ぎゅっと人修羅の袖を摘んだ。 「あのね、わたしね、立派なメイジになりたいの。別に、そんな強力なメイジになれなくてもいい。ただ、呪文をきちんと使いこなせるようになりたいのよ」 人修羅は黙ってルイズの独白を聞いた。 「私は自分の得意な系統もわからない、どんな呪文を唱えても失敗なんてイヤだった。小さい頃から、ダメだって言われてたわ…。 お父さまも、お母さまも、わたしには何にも期待してない。クラスメイトにもバカにされて。ゼロゼロって言われて……。 わたし、ほんとに才能が無いって思ってた。得意な系統も存在しない、出来損ないのメイジ、いいえ、メイジにもなれないと思ってた。 魔法を唱えるときも、なんだかぎこちないの、失敗するって自分でも解るのよ。 先生や、お母さまや、お姉さまが言ってたけど…得意な系統の呪文を唱えると、体の中に何かがうまれて、それが体の中を循環する感じがするんだって。 それはリズムになって、そのリズムが最高潮に達したとき、呪文は完成するんだって。そんなこと、一度もないもの」 「でも、人修羅が来てくれて、わたし、手がかりを掴んだ気がするの、虚無とか、そんな大それたものじゃなくて……まだ見ない私だけのリズムがある気がするのよ。 人修羅の魔法を見ると、怖いけど、でもすっきりするの、たくさん泣いたあとみたいに、心が空っぽになるけど、空しいんじゃなくて…なんか、嫌なものが流された気がするのよ」 ルイズはそこで言葉を句切った。 じっ、と黙っていると、ルイズは人修羅から手を離し、居住まいを正した。 「ねえ。人を、殺したこと、ある?」 その質問に人修羅は、静かに、だが重々しく答えた。 「あるよ」 「戦争で?」 「似たようなものかな。殺さなきゃ殺される。話し合いで解決できたこともあるけど、決して多くはない」 「あの『メギド』の魔法で殺したこともあるの?」 「ある」 「そのとき、どんな風に考えたの?どんな気持ちだったの?」 人修羅はほんの一呼吸置いて、答えた。 「…仲魔を巻き添えにしたくない、けれども魔法を放たなければ自分達が死ぬ。だから魔法を放つときはいつも祈るような気持ちだった。改めて考えてみると、あの魔法を打つ時はいつも必死だった」 人修羅の言葉に、ルイズはハッとした表情になった。 「……それかもしれない」 「それ、とは?」 「ねえ、それで、仲間を巻き添えにした事って、ある?」 「敵が魔法を反射しない限りは、一度もなかった…と思う」 「それだわ、きっとそれよ、だから私、人修羅を呼んだのかもしれない。 私、魔法を失敗してカトレア姉様を怪我させたことがあるの、でも姉様は私の魔法は私だけのものだから、大切にしなさいって言ってくれた。 私、失敗だって言われ続けた爆発も、カトレア姉様の言葉があったから嫌いにはならなかったの。 ううん。違うわ。嫌ったこともあるけど、私の魔法が起こしたことは、私の責任だから、私の責任から逃げないようにって教えてくれたのがカトレア姉様なの」 興奮気味になっていたルイズは、いつの間にか自分が人修羅に顔を近づけていたと気付き、こほんと咳をしてから居住まいを正した。 「…それでね。私は、自分の魔法を制御したい、って思ったのかもしれない。だから私は人修羅を呼んだのかもしれない、って思ったの」 「そうか。そう思っていたなら上出来だよ」 人修羅はぽん、とルイズの頭に手を乗せた。 「ゆっくりやろう」 「うん…」 ルイズはしおらしく頷き、上目遣いで人修羅を見た。 これはちょっとクるものがある。 しかもちょっと目がうるんでる気がする。 やばい、これはやばい。 東京受胎が起こる前、比較的仲の良い同級生と遊びに行くこともあったが、だいたいは複数人だった。 今更だが、女の子と二人きり、しかもアクマになった時から成長が止まっているとすれば、自分はまだ17歳。 ほとんど同年代の女の子に上目遣いで迫られていると言えるだろう。 「うおっほん!」 「ぬお!」「おっ、お父様」 突然聞こえてきた咳払いに驚き、ルイズと人修羅は慌てて距離を取った。 声の主、ヴァリエール公爵はルイズ達と対面のソファに座り、執事を後ろに待機させた。 執事は銀製のトレイを持ち、その上には手紙らしき物が置かれている。 「…さて。ミスタ・人修羅。先ほど別のメイジにもカトレアの様子を見て貰ったところ、驚くほど水の流れが澄んでいると言われた、健康そのものだと」 公爵は微笑みながら言葉を紡ぐが、先ほどのわざとらしい咳払いのおかげで、どうもその微笑みに裏があるように見えて仕方がない。 「そ、そうですか。それは良かったです」 人修羅はほんのちょっとだけ冷や汗を流した。 「ところで、つい先ほど魔法学院のオールド・オスマンから、ルイズ宛に手紙が届いたのだが…」 公爵の言葉で執事がテーブルの脇に移動し、ルイズの前にトレイを差し出した、ルイズはトレイから手紙を取ると、すぐにその封を開けて中を読み始めた。 「まあ…」 手紙に目を通したルイズは、その内容に驚き、思わず声を上げた。 一通り読み終えたルイズは手紙を畳み、テーブルの上にそっと置く。人修羅はさりげないその仕草に感心し、心の中で(このさりげない上品な仕草が貴族かあ)と呟いた。 「姫殿下が私に会いたかったと、オールド・オスマンに仰ったそうです」 ルイズがそう呟くと、公爵はうむ、と頷いた。 「ゲルマニアに嫁ぐ前に…私に、一目会いたかったって…」 「ゲルマニア?」 その地名がキュルケの故郷を指すものだと思い返し、思わず人修羅も呟いてしまった。 公爵はふぅ、と息を吐いてから、ちらりと人修羅を見た。 人修羅はその視線に苦しげなものを感じたので、真剣に話を聞くため居住まいを正した。 「姫殿下は、アルビオンの反乱に心を痛めておられる」 公爵はハルケギニアの政治情勢を説明した。 アルビオンの貴族たちが反乱を起こし、今にも王室が倒れそうなこと。 反乱軍が勝利を収めたら、次にトリステインに侵攻してくるであろうこと。 それに対抗するために、トリステインはゲルマニアと同盟を結ぶことになった、結束を固めるためアンリエッタ王女がゲルマニア皇室に嫁ぐことになったと……。 「そう、そうだったの……」 ルイズは沈んだ声で言った。 ルイズは幼い頃、王女アンリエッタの遊び相手を務めていた、今回の結婚もアンリエッタが望んだ物ではないと、明らかに想像できた。 「姫さま…」 沈みこむルイズに、公爵が声をかける。 「ルイズ、今すぐ準備をしなさい。馬車を竜に引かせれば明日にはトリスタニアに到着するだろう。姫殿下にお目通りを願って来なさい」 「お父様?」 ルイズは、ハッと顔を上げた。 そしてごくりとツバを飲み、すっくと立ち上がると、祈るように手を合わせた。 「ありがとうございます、お父様!」 ルイズはそう言うと、そそくさと応接室を出て行った。 人修羅もそれに付いていこうとしたが、公爵が呼び止める。 「ミスタ・人修羅。君は使い魔として召喚されたとはいえ、大変に迷惑をかける」 「いや、気にしないでください。……それに俺にまでミスタなんて敬称を付けなくても……」 「そう言うわけにもいかん。ヴァリエール家の従者の行いは、ヴァリエール家がその責を取らねばならん。君に敬称を付けるのは、君を準貴族として扱ってのことだ。ルイズの魔法を監督してくれるとなればそれぐらいは当然だ」 「そ、そうですか。 …ところで、俺だけを残した理由は、何ですか?」 人修羅の瞳が、ほんの僅か金色に輝く。 その気配にただならぬものを感じた公爵は、懐からもう一通の手紙を取り出した。 「…実は、ルイズ宛とは別に、オールド・オスマンから私宛の手紙があった。そこには君がどれだけ学院に協力的なのか、また戦いを望まぬのかが書かれていた……が」 公爵は静かにその内容を語り出した。 オールド・オスマンからの手紙は、人修羅に関することととルイズに関すること。 魔法学院卒業生のエレオノールは息災か、カトレアという姉妹のことを大変気にしていたが体調はどうか…等々。 手紙に特別なことなど書かれているとは思えないが、公爵の表情はどこか厳しい。 「特に何かを危惧しているとは思えない手紙だが、オールド・オスマンはルイズ宛の手紙について、トリステインとガリアの故事を引用している」 「故事?」 「四百年ほど前の話だと言われているが……ウィリアムというトリステインの王子に思いを寄せた、ガリア公爵家の少女が手紙をしたためた話だ。 その手紙は一種のラブレターなのだが、トリステインの王子には既に婚約相手のルージェという貴族の子女がおられ、しかもその方には別の貴族…確かウォールという名前の貴族が恋心を抱いていたのだよ。 ラブレターの話を聞きつけたウォールは、王子が浮気していると思いこみ、アラを探したのだが尻尾も掴ませない。当然だ、王子はラブレターに丁重な断りの返事を出したのだからな。 オールド・オスマンはこう書いている。 『ミス・ヴァリエールは王女と大変仲が良いと聞き及びる次第、魔法学院ご来訪の際にもしきりにミス・ヴァリエールを探しておられました。ウィリアム王子の故事の如くゲルマニアの皇帝に嫉妬されるなどありましたら、笑い話にも………』 とな」 「はあ」 人修羅は気のない返事をした、その故事が何だというのか、その故事をわざわざ例えに上げたオスマンの思惑もまるで解らない。 公爵は一呼吸置くと、人修羅の顔を見据えた。 「十中八九、姫殿下はルイズに何か頼み事をするだろう。それも表立てぬ事でだ」 「は?」 「ここでこの故事を例に挙げる意味が無い。すなわち、アンリエッタ王女がしたためた手紙か何かがあり、婚約つまりこのゲルマニアとの同盟を妨害するに足る場所に保管されていると見る。 アンリエッタ姫殿下は、おそらく、アルビオンの王子ウェールズ・テューダー殿下に思いを寄せておられる……思いのあまり婚約を望む手紙をしたため、ウェールズ殿下に送ったのかもしれんなぁ…」 人修羅は唖然として、呆けそうになったが、すぐに気を取り直して真剣な表情になった。 「その手紙一つで、そこまで解るものなんですか」 「オールド・オスマンは文献学をやりすぎて歴史を紐解きすぎたのよ。一時期はエルフに対しても寛容であるべきだと主張し、左遷された。そんな人物がわざわざこのような意味のない例を出すはずがない」 公爵はテーブルに手をつき、真剣な表情で人修羅を見た。 「裏庭での魔法の実践、見せて貰った。ルイズがもし身を危険に晒す選択をした場合、どうかルイズを守ってやってくれんか」 「…俺はルイズさんに養って貰ってる身です。可能な限りは守ります、ですが、暗殺にまで完全に対処できるとは思っていません」 「君でも不可能があるのか?」 「あるのか、ではなく、不可能を可能にするのが人間です。ならば、自分が絶対だと思っている物でも、いつか崩されると危機感を持つべきです」 「そうか! わかった。 君は今までそうして戦ってきたのだな、私の妻は私よりも遙かに優れたメイジだが、昨晩私にこう言ったのだ、『勝てる気がしない』と!君は弱いからこそ弱点を知り油断せぬのだな、だからそこまで剣呑な気配を持ちながら平穏を望む!」 人修羅は、表情にこそ出さなかったもののの、内心で唸っていた。 これほどまで評価されたら、誰であろうと、今更止めますとは絶対に言えないだろう。 「ルイズさんの身は守ります、ですが戦争に積極的に参加しようとは思いません、それだけは解って下さい」 「うむ……ルイズを第一に考えてくれるのなら、私からは何も言うことはない」 二人はどちらともなく手を差し出し、ぐっ、と強い握手をした。 人修羅は公爵の手に雄大さを感じ、公爵は人修羅の手に鞘に入った杖(刃)を感じた気がした。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 所変わってガリアの首都にあるイザベラの居城、プチ・トロワ。 「……どーしろって言うんだろうね、これ」 イザベラは私室のベッドの上で、長さ2メイルほどの杖を振り回していた。 朝から侍女や衛士を呼びつけて実験させたが、特になんて事のない棒だと言われてしまった。魔法を使う杖でも無さそうだし、マジックアイテムでも無い。 「ヒーホー。こんな棒きれ、何に使えっていうのさ」 ベッド脇のテーブルの上で、小さな雪だるま(冬将軍というらしい)を作っていたヒーホーは、テーブルから飛び降りてベッドによじ登った。 「スカアハは武術のタツジンで、みんなからソンケーされているんだホね。その棒はセタンタが練習に使っていた槍にそっくりだと思うホー」 「槍ぃ?」 イザベラは鼻で笑った、メイジである自分に槍を使えとはたいした皮肉だ。 魔法の才能が皆無だから槍で戦えと言うのか?冗談じゃない! 「なんだい、こんなもの!」 イザベラは興味を失ったとばかりに、杖を放り投げ、ベッドに寝ころんだ。 「あーあ、なんか面白いこと無いかねえ…って、なんだいこりゃ」 投げたはずの杖は床に落ちず、空中で静止していた。 「……マジックアイテム、なのかい?いや、でもディティクトマジックじゃ何も解らないって言ってたし…」 むくりと体を起こし、おそるおそる杖を掴むと、ゾクっとする不可思議な感触が伝わってきた。 「………なんか、絡まってる…?」 杖を握った手に力を入れて、ひねる。すると杖は宙に固定されていた力を失い、イザベラの手に収まった。 イザベラは今の感触を思い出しながら、杖をねじりながら突いたり、風を絡みつける姿をイメージした。 すると杖は風を巻き込み、窓に掛かるカーテンを揺らし、シャンデリアを動かした。 「…ははは、はははははははっ!なんだいこれ、面白いね!」 「イザベラちゃん楽しそうだホー」 イザベラは杖をねじることで、風や空気を巻き込み、また空中に固定させることを覚えた。 空中で杖をねじって固定し、そこに飛び乗って座る、すかさず杖を空中から解き、体が落ちきる前に杖を虚空に伸ばし、ねじる。 すると階段を上がるようにどんどんどんどん体が持ち上げられていく。 「おっと、高く上がりすぎたね…」 シャンデリアと同じ高さになったところで、イザベラは自分が高く上がりすぎたと思った。 「こう…いや、こうか?」 絡まった空間を、半分だけ解く姿をイメージして杖をひねると、杖はゆっくりと降下していく。 「ふぅん、なかなか面白いマジックアイテムじゃないか」 着地したイザベラはそう呟いて、杖を高く掲げた。 イザベラの頭の中では、すでにこのマジックアイテムをどう試すかで埋まっている。 何せ魔法の才能がない自分が、詠唱も何もなしに風を操り、宙に浮くこともできたのだ。 マジックアイテムに頼るようで少し癪だが、これもヒーホーとその友人?がくれた物だと思えば、自分のためだけにあるマジックアイテムのようで悪くない。 「ヒーホー!こいつはいいね、少し使いこなせるように試してみるよ」 「気に入ったホ?良かったホね! イザベラちゃんの周りの風も喜んでるホ!」 「風が喜んでる?」 おかしな事を言うヤツだ、そう思ったイザベラの耳に、誰かかささやく声が聞こえてきた。 『……』 「あん?」 「イザベラちゃんと一緒に踊れて嬉しいって言ってるホー」 ヒーホーの言っていることは、精霊魔法の観念に疎いイザベラでもなんとなく理解できた。 眉間に皺を寄せていたイザベラだが、自分の周りを包む風に、声のような意志のような物を感じてくると、その表情は笑顔へと一変した。 「はっ、ははは!あははははははははは!」 (このアタシが!先住魔法の使い手になるってのかい!) イザベラは、気が触れたような高笑いを続けていた。 ただごとではないと感じた侍女が医者を呼んだのは余談である。 前ページ次ページアクマがこんにちわ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6959.html
ゼロの提督より。右の女誰だよ。 -- 門閥貴族A (2009-05-23 18 47 10) ヤン提督ktkr -- 名無しさん (2009-05-23 20 59 17) 老けたサイトにしか見えねえ -- 名無しさん (2009-05-24 07 12 57) この話、ラインハルトが召喚されてたらハルケギニア統一されてそうだよなw -- 名無しさん (2009-05-24 12 00 30) て、提督ぅ~学ランにしか見えません~w -- 名無しさん (2009-05-24 17 19 32) 若ぇな提督w -- 名無しさん (2009-05-27 06 23 00) 同じくヤン提督を召喚した小ネタ「第六の系統魔法」を読むと、マザリーニ枢機卿がシドニー・シトレ統合作戦本部長に脳内変換されてしまう。 -- 名無しさん (2009-10-13 05 54 27) ルイズ?がすっげぇ不細工だwwwそしてヤンの体のバランスがおかしい -- 名無しさん (2009-10-13 19 29 07) ルイズかわいくない? -- 名無しさん (2009-10-26 22 21 08) かわいくない -- 名無しさん (2009-10-27 03 42 39) その上、似てない -- 名無しさん (2009-10-27 05 15 55) ルイズがイゼルローン要塞に行った後、ユリアンと出会ったらどんな感想を抱くのかな? 少なくとも執事としてはユリアンがはるかに適任だろうし -- 名無しさん (2009-11-16 16 38 19) ヤン提督は上手く描いてるけど、ルイズがww怒ってるみたいだが、なんで怒ってるんだww -- ODST (2010-10-09 23 11 30) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3855.html
前ページ次ページ悪魔も泣き出す使い魔 ~赤い狩人~ 悪魔の巣窟となった屋敷へ向かえ 学院から少し離れた領地に構えられた屋敷。 そこの領主である貴族のジュール・ド・モット伯と、その周辺に漂う不穏な空気に、周囲の人々は只ならぬ不安を感じていたのだった。 元々あまり善い噂を聞くことが無かったモット伯であったが、近年にも増して不振な行動が目立っていたからである。 そんなモット伯の屋敷へ、コック長のマルトーの頼みでダンテが訪れたのは、日が落ちる夕刻の頃。 マルトーは何度かモット伯の厨房を手伝いに屋敷へ呼ばれたそうだ。 その時の記憶は鮮明で、あんな場所に連れて行かれたシエスタが心配で堪らないらしい。 ダンテは、厨房でマルトーに聞かされた屋敷の話を思い出す。 「あんな気持ちの悪い連中は初めてだった・・・。 あの屋敷で俺が何の仕事をしたかと言えばモット伯一人分のディナーだけ。 ヤツが食事を始めると、テーブルのサイドでメイドも執事も死んだ様な目ぇしてジッと動かねえんだ」 いつもの豪気なオーラは陰に潜み、顔面蒼白で屋敷での出来事を話すマルトー。 いつもの調子で茶化す事も無く、ダンテはその話を食い入る様に聞いていた。 「メイドの連中がゴーレムっちゅうのは、頭じゃ解っちゃあいるんだが・・・、 あんまり気味が悪い光景だから、仕事を終えたらさっさと荷物まとめて逃げる様に帰ってったね俺は。」 専用の食事席に腰掛けるダンテに向かって、マルトーが頭を下げる。 「一度だけもいいんだ、シエスタの顔を見に行ってやってくれるだけでもいい。どうにも今日一日胸騒ぎがずっと止まないんだ。」 それからダンテは意識を目の前の屋敷に戻した。外から漂う久々に感じ取った得物の匂い。高ぶる感情にダンテは思わず笑みを溢した。 「いいぜ。こういうヤバそうなのは大歓迎だ」 そう呟いて、屋敷の入り口まで向かおうとしたその時、自分の主人であるルイズが息を切らしながら駆け寄ってきた。 ルイズは少々怒った口調でダンテに問い詰めた。 「ちょっと、何処へ行くつもり?」 それに対して、ダンテはいつもの調子で答える。 「パーティーのお誘いがあってね。今夜は戻らないぜ」 ゆっくりと論する様な、しかし怒りの込められた口調で、己の使い魔に説明するルイズ。 「アンタ、何も理解してなさそうだから言っておくけどね、平民が、ましてや人権も無い使い魔のアンタが貴族と揉め事を起こしたら、 本当にタダじゃ済まないのよ。この前の決闘なんかと一緒だと思わないで」 そんなルイズの話を聞く間もなく、ダンテが真顔になって口を開いた。 「相手が貴族じゃなかったら?」 「・・・え?」 急な問いかけに対して動揺を隠せないルイズ。 「前にも話したろ?ロクでもない連中が、貴族に代わってあそこの屋敷でのさばっているとしたら?」 「そんな事急に・・・、意味分かんないわよ!」 ルイズは使い魔が投げ掛けた疑問が理解できず、それがそのまま動揺となってルイズの面に表れた。 「臭うんだよ。奴等の臭いで大体判るのさ」 頬を膨らませ、ルイズが一言漏らす。 「・・・・・犬」 「わんっ!わんっ!」 「も、もう!遊んでる場合じゃないわよ!結局どういうことなのよ!?」 「ま、行って確かめりゃハッキリするさ」 それからルイズに「ここで待ってろ」と一言告げて、ダンテは門番に近づき話し掛けた。 門番の顔を見るや確かに噂通りの顔つき・・・でも無かった。気さくな表情で和気あいあいとダンテと話している。 「・・・ハハハ。申し訳ないがジュール・ド・モット様は今晩大事な用がありますので、 今日のところはお引取り願いたいのですが。」 「そうかい。だが今日はパーティーがあると聞いてここに招待されたんだがね?」 「はて?そのようなご予定は聞いておりませんが・・・」 「おかしいな、チケットはここに持ってるぜ」 ダンテは両手をコートの裏から腰に当てて何やらゴソゴソしている。ルイズはその様子を遠くで見ていた。 「ちょっと拝見してもよろしいですか?」 「ああ、今出すから待ってな」 「ちょっ!ちょっと勝手に・・・!!!」 そう言いながらルイズが駆け寄ろうとした瞬間、門番の額にゼロ距離で銃口を向けるダンテ ダァン!と一発の銃声が鳴り響いた。 思いもよらぬ使い魔の行動に目を見開き両手を口に当てるルイズ。 恐る恐る撃たれた門番に目をやるとその姿はそこに無く、その上から血の様なものが滴り落ちている。 そこへと視線を上に向けると、壁に貼り付いている人の様な"それ"が自分の目に映った。 ギャアアァァァ!!!と金切り声をあげながら"それ"はダンテに降りかかった。 ダンテはすかさず左手からもう一丁の銃を取り出し、2つの銃口を掲げ交互に乱射する。 銃弾を受けるものは、慣性を無視するかのように宙へ浮き続けた。 あまりの出来事にストンとその場にへたり込むルイズ。 混乱する頭を落ち着かせ、悲鳴と恐怖を必死に堪えながら周囲の状況を理解しようとした。 向かいに居た筈のもう一人の門番の姿が見えない。代わりに背後で何か気配を感じる。 気配のする方向に目をやると化け物がもう一匹、 名前を呼ぶのもおぞましいその醜い姿はルイズに襲い掛からんとばかりに右手を振り上げていた。 そいつと目を合わせてから身体が硬直して一切動けない。今まで感じた事のなかった恐怖がルイズを支配している。 化け物が右手を振り下ろそうとしたその瞬間、 ダンテの投げたデルフリンガーが衝撃を響かせ、ピアスのように化け物の胴体へ突き刺さった。 次の獲物にゆっくりと近づく狩人。 悲鳴を上げながらバタバタとその場で悶る姿を傍らで見ているルイズは今にも泣き叫びそうだった。 化け物の顔に靴底を押し付け、胴体に銃口を向けてガン!ガン!ガン!と無数の銃弾を打ち込み地面にスタンプさせる。 その時のダンテはいつにも増して楽しそうな顔をしていた。 惨劇も束の間。再び夜の静寂が周囲を包む。 「よう」 呆然とするルイズに声は届かない。 「やれやれ、漏らしちゃいないだろうな御主人様よ」 「・・・・・・・漏らさないわよバカ!!」 やっと落ち着いた所で改めて周囲を見回すルイズ。 「・・・何なのよコイツら」 「悪魔さ。魔法使いなんざやっといて、見たことも無いのかよ?」 「でもこんなのって・・・・こんなの今まで一度も・・・」 「こんなのが、この中に、ウジャウジャ居るのさ。シエスタと一緒にな」 左手に持つエボニーを屋敷に突きつけながらそう言うダンテ。その中を想像するだけでルイズは背筋を凍らせた。 始末した門番の悪魔が泡となって消える頃、遠くからこちらへ近づいてくる人影が見えた。 「キュルケか」 学院を出るルイズを追いかけて来たそうだ。上空でタバサの風竜が待機している。 「もっと早く来たかったんだけど、タバサがね、今日は部屋から絶対出たくないなんて言いだしちゃって、 それを説得するのに今まで時間が掛かっちゃったの。もう会いたかったわぁダーリンっ!!! あらヴァリエールどうしたの?こんな所に座り込んで?漏れそうなの?」 「うううるさいわねどいつもこいつも!!!放っといてよ!!!!!」 マルトーに頼まれてからこれまでの事情をキュルケに説明した。 「・・・てな訳なんだ。悪いがウチの御主人を連れて帰ってもらえないか?」 「うーん、ダーリンの頼みだからいいんだけど、・・・タバサの奴絶対ここまで降りてこないわよ」 「アンタね・・・」 事の経由を察するにタバサに同情せざるをえないルイズ 「やれやれ・・・、オバケ嫌いなタバサが、安心して降りられる場所まで案内してくれ」 「え?ちょっと??・・・ひゃあっ!!」 動けないルイズをお姫様抱っこの状態で抱えるダンテ。 「優しいのねぇ。でもダーリンは早くあの屋敷へ行ってあげなきゃ。この子一人位なら私だけでも何とかなるわ」 そう言ってルイズに目をやりながら呪文を唱えると、ダンテの両手からルイズが宙に浮いた。 「おお落としたらただじゃ済まないわよ!」 「この後に及んでまだそんな口が聞けるとは・・・ちょっとは感謝してもらいたいわね」 「助かったぜ」 「あら、いいのよダーリンは。そのかわり、今ルイズにやったア・レ。私にもして欲しいなあ」 「ハッ いいぜ。・・・二人きりの時にな」 「・・ちょっと・・・急いでるんなら・・・さっさと行きなさいよ・・」 二人の世界に物理的に挟まれるルイズ。両方とも結構な胸囲なので尚更息苦しい。 「メイドさんをよろしくね」 「今夜中には絶対帰ってくるのよ!!」 「ああ、必ず二人で戻る」 ダンテは軽く手を振り、空に舞う2人を見送った。 「楽しいパーティーになりそうだな」 ダンテは夜空に浮かび上がった双月を、狩人の様な鋭い目つきで見ながら、そうつぶやいた。 前ページ次ページ悪魔も泣き出す使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7533.html
前ページ次ページときめき☆ぜろのけ女学園 「私と恋人同士になるって事は、ルイズも妖怪になっちゃうんだよ! 本当にいいの?」 (私が妖怪にー!?) キリからの予想外の言葉にルイズは驚愕の色を隠せなかった。 「な……、何で? 何で私が妖怪になっちゃうのよ!?」 「……前に言ったよね。下の口でキスするとルイズもその相手と同じ種の妖怪になっちゃうから気をつけてって」 しばらく顎に手を当てていたルイズだったが、転校翌日にキリから聞いた話を思い出した。 「……あ、あー! 思い出した!」 話の内容に赤面しつつも、ルイズは笑顔を作ってキリを安心させようとする。 「でっ、でもそれと恋人同士は別問題っていうか、そんな凄い事しなきゃ……ねえ!」 「……私は自信無いよ」 しかしそんなルイズの心とは裏腹にキリは俯いたままそう答えた。 「え?」 「恋人同士になってルイズに手を出さない自信なんて無い」 「キ……、キリ……」 キリの言葉はルイズにかすかな不安を抱かせたものの、その内にある自分への確かな想いを悟ったルイズは赤面しつつもキリの瞳を正面から見据えるのだった。 「でもルイズの事は大事だから、内緒にしたまま騙すような事したくないの。だからちゃんと考えて」 「考えるって……、妖怪になるかどうかって事?」 上目遣いで顔を覗き込むルイズの質問に、キリは無言のまま頷いた。 「だって……、妖怪になったら学院に帰れないって事でしょ? そんな……、それは困るわよ。でも……っ、でもね、キリの事は好きなのよ!」 ルイズの心の中は魔法学院に帰るという願いとキリへの愛情が入り混じり、自分自身でも答えを出せなくなっていた。 「ねえ、どうして? 人間のままじゃ駄目なの? し……、下の口とか何とかって……、そんな事しなければいいんでしょ?」 「ルイズはまだ知らないんだね」 そう言いながらルイズのスカートの中に手を伸ばそうとするキリ。 「わあっ! ちょ……」 「ここ、気持ちいいんだよ」 「キ……、キリ……、駄目っ」 「気持ちいいでしょ? 一緒にくっつけたら私も気持ちよくなるの。恋人同士なら普通の事だよ」 ルイズはキリの肩に手を当てて押しのけようとし、キリはルイズのスカートをそっと持ち上げる。 「普通……っ!? で、で……、でもそれじゃ私が妖怪に~っ」 ルイズの頬が今まで以上に赤くなる。 「私はルイズが同じ猫股になってくれたら嬉しいなあ」 「ううっ……」 「……なんてね」 かすかな微笑みを浮かべて言ったキリだったが、それを即座に否定してルイズをそっと抱き締める。 「嘘。ごめんね、ルイズ。困っちゃうよね。もう友達のままでいようよ? そうしたら今まで通りでいられるから」 「それは嫌っ!」 キリの言葉を却下するルイズ。その目には涙が浮かんでいた。 「ルイズ、でも……」 「嫌ったら嫌ー!」 「困ったな……、私ほんとに自信無いんだよ……」 「だって今だってもう……、我慢できなくなって……」 畳の上でルイズにマウントポジションを取るキリ。 「キリ?」 「ルイズ……、可愛い……」 「わ……!」 そしてそのままそっとルイズのスカートの中に手を入れていく……。 「だ……っ、駄目ー!!」 思わずキリを突き飛ばしたルイズ。 そしてそのまま部屋から駆け出していってしまう。 「……荒療治すぎたかな。ルイズ、ごめんね」 窓の外では雨が降り始めていた。 前ページ次ページときめき☆ぜろのけ女学園
https://w.atwiki.jp/sinoalice_kousatu/pages/171.html
ムービー 予告 予告2 エリザベスブレイカー、葬儀屋パラディン、シエルガンナー、グレルクラッシャー、スノウホワイト執事、セバスチャンメイジ OP ストーリー + ←展開する 開幕ムービー エンディングムービー ジョブ ウェポンストーリー ジョブストーリー ウェポンストーリー 実装時期 セバスチャン メイジ 執事のティーセット イベント配布 none/スノウホワイト 執事 none/正義の教本 魔晶石購入 none/エリザベス ブレイカー none/エリザベスのレイピア 幻夜の舞踏会 none/葬儀屋 パラディン none/葬儀屋の鎌 幻夜の舞踏会 none/シエル ガンナー none/シエルの銃 幻夜の舞踏会 none/グレル クラッシャー none/グレルのチェーンソー 幻夜の舞踏会 none/ none/助音の蝙蝠 幻夜の舞踏会 none/ none/血晶石の忠告 幻夜の舞踏会 none/ none/仕立屋の秘密 幻夜の舞踏会 none/ none/幻想幸せの炎 幻夜の舞踏会 none/ none/王家簒奪の大剣 幻夜の舞踏会 none/ none/作り物の心 幻夜の舞踏会 none/ none/美食家の魔書 幻夜の舞踏会 none/ none/火蝶々の斧 幻夜の舞踏会 none/ none/蛇神の杖 幻夜の舞踏会 none/ none/炎毒蠍の銃 幻夜の舞踏会 none/ none/原形質の劫火 幻夜の舞踏会 none/ none/円環の竜槍 幻夜の舞踏会 none/ 太陽遠矢の弓 幻夜の舞踏会 none/ 天空への夢 幻夜の舞踏会 none/ none/仄暗い炎面唄 幻夜の舞踏会 none/ none/聖巫女の薙刀 幻夜の舞踏会 none/ none/幸せの郵便受け 幻夜の舞踏会 none/ none/生命を絶つ大剣 幻夜の舞踏会 none/ none/妖精の輪の魔導書 幻夜の舞踏会 none/ none/城主の棍棒 幻夜の舞踏会 none/ 曲芸師の剣 イベント配布 none/ 触れられざる炎書 イベント配布 none/ 魔騎士の幻銃 イベント配布
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4335.html
前ページ次ページZERO A EVIL しばらくして、ルイズは学院長室に呼び出された。 使い魔は召喚できたが、どういう訳か使い魔のルーンは自分に刻まれてしまった。 これは二年生に進級するための使い魔召喚儀式に失敗した事になり、自分は留年してしまうのではないかとルイズは心配であった。 だが、コルベールから報告を受けていた学院長オールド・オスマンはあっさりルイズの進級を認めてくれた。 オスマンはルイズが努力していたのを知っていたし、つらい思いをしていることもわかっていた。 しかし、学院長である自分が表立ってルイズを庇ったり、手助けをする訳にはいかない。 自分が動けば、ルイズは他の生徒から反感を買ってしまい、ますます立場が悪くなってしまう。 ルイズを助けてあげられない自分を歯痒く思い、教師達には出来るだけルイズを助けるように言いつけている。 だが、やはり他の生徒の手前もありうまくいってはいないようだ。 そんなある日、教師のコルベールが何やら慌てた様子で学院長室にやってきた。 話を聞くと、ルイズが使い魔の召喚に成功したが、なぜか使い魔のルーンがルイズに刻まれてしまったという。 本来であれば、使い魔のルーンが刻めなかったということで契約は失敗という事になる。 が、ルイズが召喚したのは動かず、しゃべりもしない石像である。 契約をできたのか、できなかったのかは誰にもはっきりとは言えない状況になっている。 何より、努力していたルイズが始めて魔法に成功したのである。 誰に文句を言われようとオスマンはルイズを留年させる気はなかった。 「進級おめでとうミス・ヴァリエール。これからも努力を忘れんようにな」 最後にルイズに労いの言葉をかけてオスマンの話は終わった。 こうしてルイズは無事に二年生に進級することができたのである。 その日の夜。 無事に二年生に進級できたことでルイズの機嫌は良かった。 これで、いつもルイズの事を心配していた姉のカトレアを安心させる事ができる。 そして、しばらく会っていないが自分の許婚であるワルド子爵に迷惑をかける事も無い。 そう考えれば、あの石像に感謝はすれど、恨む気持ちなどまったく感じなかった。 例え自分にルーンを刻んだのが、あの石像のせいだとしても… ルイズはいつものようにネグリジェに着替えて眠りに付く。 今日はいい夢が見られそうだった。 ルイズは夢を見ている。 夢の中のルイズは大きなドラゴンの姿をしていた。 翼は無いが、鋭い爪に長い尻尾、大きな口からはどんな生き物でも噛み砕けそうな歯が生え揃っている。 このあたりでルイズにかなう生き物はいなかった。 しばらくして、ルイズの住んでいる山の生き物が獲物を差し出してきた。 獲物はそれほど大きくなかったが、わざわざ捕まえる必要がなくなったのでルイズは満足だった。 だがある時、4匹の獲物がルイズに抵抗してきた。 ルイズはお互いに協力しあう獲物達の攻撃の前に敗れてしまう。 大地に崩れ落ちるルイズの目は、もう何も写すことはなかった。 急に場面が切り替わりルイズは別の姿になる。 次のルイズはある船の中で、船の安全を確保し、船内の調和を維持し、乗員を守るという使命を受けていた。 だが、ルイズに使命を与えた人間は互いに衝突し、完全に調和を乱し、船の運航を妨げていた。 自分に使命を与えておきながら、自らそれを破る人間をルイズは理解できない。 そしてルイズは自分に与えられた使命を果たすため、ある行動に移る。 それは、この船の調和を維持するために、それを妨害する人間を消去するというものだった。 調和を乱す人間を次々に消去していくルイズ。 だが、一人の人間と作業ロボットにルイズの行動は妨害されてしまう。 そして、作業ロボットに敗れたルイズは最後にこの言葉を残し沈黙する。 …ニンゲンハ_ …シンジラレナイ_ また場面が切り替わりルイズの姿が再び変わる。 今度のルイズは挌闘家だった。 だが、唯の挌闘家ではない。全てを捨て最強を目指す修羅の道を歩んでいた。 ルイズは自分の技を磨き、数多くの敵と戦い勝利を収めていった。 そして、倒した相手には必ず止めを刺した。 倒した相手の命を絶たなければ真の勝利とはいえないとルイズは考えていた。 ある時、世界のあらゆる格闘家と戦い最強を目指している若者がいるという噂を耳にした。 同じ最強を目指す者として興味が沸いたルイズは、若者の戦いを見てみることにした。 が、若者の戦いは手緩いとしか思えなかった。 若者は倒した相手に止めを刺さなかったのである。 ルイズは若者が戦った格闘家達に勝負を挑み、全員に止めを刺していった。 そして、若者の前に立ち塞がる。 真の最強を決めるために。 しかし、ルイズは若者との戦いに敗れてしまう。 若者はルイズが止めを刺した格闘家達の技を駆使し、ルイズを打ち倒したのだ。 敗れたルイズは、若者に最強の道を目指しながら人間でいられるかという問いを残し、静かに目を閉じた。 気が付けばすでに朝になっており、ルイズは目を覚ました。 「変な夢…」 夢だとわかっているはずなのに、妙に現実感があった。 まるで、実際に自分が体験した出来事のように感じる。 ふと、もしかしたら昨日自分が召喚した使い魔も夢だったのではないかと思い、左手を見てみる。 だが、やはりそこには使い魔のルーンが刻まれていた。 自分の左手を見て微妙な気分になりながら、ルイズは制服に着替える。 「どうしようかしら…これ」 このルーンが見つかれば、また自分は馬鹿にされてしまう。 なるべく左手は見せないようにしようと誓うルイズであった。 朝食を食べるために食堂に向かおうとすると、隣の部屋の扉が開き、中から燃えるような赤い髪をした褐色の少女が姿を現す。 「あら。おはよう、ルイズ」 「おはよう。キュルケ」 この少女の名前はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。 ヴァリエール家とツェルプストー家には先祖代々からの因縁があり、ルイズにとってもキュルケは苦手な相手だった。 なにより、抜群のスタイルを持っているキュルケは貧相な体つきのルイズのコンプレックスを刺激する。 加えて魔法の才能も有り、男子生徒からの人気も高い。 ゼロの自分とはまるっきり正反対の少女だった。 「そういえば、昨日未完成のゴーレムを召喚したんですってね」 「ぐっ…そ、そうよ」 昨日ルイズが召喚した使い魔はもう噂になっているようだ。 もちろんいい意味ではなく悪い意味で。 「あっはっは!やっぱり噂は本当だったの、さすがゼロのルイズね」 「う、うるさいわね!使い魔は召喚できたんだからいいじゃない!」 いつものようにルイズを馬鹿にするキュルケ。 自分をゼロと呼ぶキュルケに対し、ルイズの苛立ちは募っていく。 「やっぱり使い魔にするならこういうのがいいわよねぇ。フレイム~」 キュルケの呼びかけに答えるように、後ろから燃える尻尾を持った大きなトカゲが現れた。 「これって、サラマンダー?」 「そうよ。それより見て!この尻尾。ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ。すごいでしょ、誰かさんと違って」 「……」 自分の使い魔を自慢してくるキュルケに対し、憎しみの感情がルイズの心に湧き上がる。 (この女はいつもこうだ。私が持っていない物を全て持っていて、それを見せ付けてくる。 私の気持ちなんて、これっぽっちも考えてないんでしょうね。この下品な乳デカ女は。 なによ!こんなサラマンダーなんか、夢で見たドラゴンの私に比べたら全然たいしたことないわ! 鋭い爪であんたの使い魔の肉を引き裂いて、大きな口で一飲みにしてやるんだから!) そんな事を考えながら、ルイズはフレイムを睨みつける。 その時、ルイズの左手のルーンが薄っすらと光を発していたが、ルイズもキュルケも気付いていない。 だが、フレイムはルイズの異変に気付いていた。 自分を睨みつけてくるルイズから、ものすごい威圧感を感じるのだ。 まるで、自分よりもはるかに巨大なドラゴンから睨みつけられているような恐怖を感じ、フレイムはキュルケの後ろに隠れる。 「あ、あら?ちょっと、どうしたのフレイム?」 急に自分の後ろに隠れ、震えているフレイムに困惑するキュルケ。 どうやらルイズを怖がっているようで、前に出そうとしてもすぐに後ろに下がってしまう。 「ふん。私を見て怖がるなんて、随分臆病な使い魔ね」 「そんなはずは…」 尚も頑張るキュルケだが、フレイムはもう一歩も前には出そうになかった。 「それじゃ、私は食堂に行くから。精々頑張りなさい」 キュルケとフレイムを残して食堂へと向かうルイズ。 なんだか妙に気分がすっきりしていた。 これなら、今日の朝食は普段よりもおいしく食べられそうだ。 事実、朝食はおいしかった。 特に鳥のローストは、においを嗅いだだけで思わずよだれが出てしまいそうなほどだった。 夢中で朝食を食べながら、ルイズは思い出していた。 夢の中でドラゴンだった自分は、最後に獲物を食べ損なっていた事を… 前ページ次ページZERO A EVIL
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4336.html
前ページ次ページゼロな提督 シティオブサウスゴータを出立した一行は、夕暮れにはロンディニウムへ到着した。 遠目に見るロンディニウムは大国アルビオンの首都に相応しく、トリスタニアより広く て立派な街だ。大都市のわりに木々が多く、石畳もキチンと整備されている様に見える。 荷馬車から南を見ると、くすんだオレンジ色の屋根が並ぶ街の彼方、丘の上には立派な城 ――ハヴィランド宮殿――が見える。 第十七話 昔と今と 一行は荷馬車のまま街に入った。町並みに内戦の傷痕は見えない。どうやら最優先で復 興事業を行ったのだろう。石畳も町並みも綺麗なものだ。 アスファルトで整地されたわけでもない道を駆けてきた荷馬車に、ヤンはもう限界だっ た。全身の痛みでヒーヒー悲鳴を上げるヤンを引きずる一行は、即座に宿を取り荷物を放 り込んだ。だが今回は、ロングビルがマチルダとばれるとまずいので、貴族が出入りする 宿に泊まれない。なので平民向けな中の下程度の、レンスター・インという宿に入った。 それでも一番良い部屋で、ベッドが二つ並んだ部屋を。 自分の部屋で、床にだらしなく大の字で伸びたヤンの頭を、厩に馬と荷馬車を預けてド スドスと入ってきたルイズがギュムッ踏んづける。 「ちょっとあんた!ボサッとしてる暇はないからね。急いで身支度整えて、宮殿へ行くわ よ」 というわけで、小声で「おにぃーあくまぁー待遇改善を要求するぞぉ~…」という執事 のささやかな抗議の呟きは当然のようにスルーされた。 ルイズは大荷物の中から綺麗なまま取って置いた学院の制服を取り出し、マントもホコ リや汚れを落とし、クシで髪をすく。香水を混ぜてもらったらしい、心地よい芳香を漂わ すお湯を持ってこさせて湯浴みもする。 しょーがないのでヤンもヒゲを剃ったりと小綺麗に身支度を調える。 準備を終えたルイズは、ヤン達を連れて宿の前に立った。さすがに荷馬車に乗って王宮 に乗り付けられないので、宿の者に呼んでもらった馬車が待機している。 お供をするヤンを見るルイズの目は、冷たかった。 「あんた、ホントに冴えないわねぇ…ちゃんと支度したの?」 「も、もちろんだよ。失礼だなぁ」 確かにヤンは服も綺麗にしてるし、ヒゲだって剃った。髪も整えてる。 だが、横で見ているロングビルにも、ヤンの身なりが整っているかどうかと関係なく、 冴えないなぁ…と感じていた。さすがに遠慮して口にはしなかったが。 「やっぱ、おめーさんの人徳っつーか、魂の格ってヤツが滲み出てるんじゃねーか?」 デルフリンガーは遠慮しなかった。 「それじゃ、行ってくるわ。ロングビル、お留守番よろしくねー」 「はーい、頑張りなさいよー」 ロングビルは正体がばれるとまずいので、王宮には行けない。日の光があるうちは自由 に外にも出れない。遍歴の修道女っぽくローブで頭からすっぽり全身を隠してはいるが、 油断するわけにはいかない。なので、宿で待ってる事になった。 手を振るロングビルに見送られ、馬車は宮殿へ出発した。 道中、いつぞやのごとく、ヤンは暗くなり始めた街を興味深げに眺めていた。だがトリ スタニアの時と違うのは、何かを探すようにキョロキョロしていたことだろう。 座席に立てかけられたデルフリンガーは「?」な感じだ。ルイズも怪訝な顔をする。 「ねぇ、ヤン。一体何を探してるの?」 「ん?ああ、えーとねぇ…」 窓の外を見つめたまま、なんとなく上の空で答える。 「べーカー街とかさ、ビッグ・ベンとか、大英博物館とか…あるわけないよね。そりゃそ うだよね…うーん、残念」 「だから、なんなんだよそりゃ?」 もちろんデルフリンガーには何のことだか分からない。ルイズも「?」と首を傾げる。 ちなみに、大英博物館は西暦1759開館、ビッグベンは西暦1858年に完成。べー カー街は英国に実在するが、ホームズとワトソンが下宿したべーカー街221B、ハドス ン夫人所有アパートに至ってはシリーズ最初の『緋色の研究』が発表された1887年当 時は架空の住所。1930年にアッパー・ベーカー街がベーカー街と合併して221Bが 本当に生まれた。 いずれにせよ、この場所はロンドンではなくロンディニウム。時代は地球へ当てはめる と17~18世紀中頃辺り。どちらにしても、あるわけない。 目の前に広がる町並みは、木材をほとんど使わない石造りの町並み。トリスタニアより も道幅は広い。比較的新しい雰囲気を持っていて、古都と呼べる都市ではない。何より路 地が入り組んだトリスタニアやシティオブサウスゴータと違い、区画がかなり整然と整備 されている。おかげでルイズ達は荷馬車で街中に入っても、白い目で睨まれたりする事は なかったわけだ。 「全然木造家屋が無いんだねぇ。建物もトリスタニアに比べると新しいのが多いや」 そんなヤンの言葉に、ルイズは自慢げにうんちくを疲労する。 「それはね、百年ほど前にロンディニウムは大火に襲われてね。オーク材の建物が多かっ た街は全焼しちゃったの。以来、建物に木材の使用が禁じられたのよ。道路も広くされた わ」 へぇ~、とヤンは感心してしまう。デルフリンガーも鍔をカチカチ鳴らす。 「ほっほー。ルイズよぉ、意外と博学じゃねーか」 「エヘヘ、実は昔家族で旅行に来た時、同じ事を姉さまに質問したの」 そんな事を話してるうちに、馬車はロンディニウム宮殿に到着した。 城門で、ルイズが門番の騎士達に公爵からの手紙を見せると、すぐに城の中へ確認を取 りに兵士が走る。ほどなく戻ってきた兵士の報告を受けた騎士が「失礼致しました!ホー ルにて大使一行がお待ちです!」と敬礼し、馬車を城の正面ゲートへと誘導した。 馬車から降りた二人が侍女に案内されて来たのは、城の奥の大ホール。そこでは舞踏会 が開かれていた。 大勢の楽団が優雅な音楽を奏でる。気品ある女官達が貴族へワインや食事を配る。美髯 をたくわえた威厳ある紳士が、美しいドレスや輝く装飾品に身を飾った淑女をダンスに誘 う。手を取り合う男女が甘い語らいと共にゆったりと舞う。壁際や立派な彫像の横では、 高級官吏や大臣らしき人々が笑顔と共に言葉を交わし合う。その中にはトリステインの軍 服を着た者達もいる。大使として不可侵条約調印のために派遣されたトリステイン軍人だ ろう。 そんな王侯貴族の燦然たる権威を満たしたホールに、学院の制服の上にマントを纏った ルイズと、素っ気ない黒服に白手袋のヤンも案内されてきた。デルフリンガーは警備上持 ち込み禁止。入り口の衛士に預けられた。 舞踏会会場に案内されたルイズだが、赤く染めた顔を恥ずかしげに俯かせてしまう。 「ううう…こんな舞踏会にドレスも着ず列席するなんて…ヴァリエールの名に傷が付きそ うだわ」 「でも学校の制服って便利だねぇ。とりあえずフォーマルもこなせるから」 「とりあえず、じゃ困るのよ!」 ヤンのフォローは、彼の正直な感想だったのだが、ルイズにはあんまり慰めになってい なかった。 「まぁまぁ、服装の事は気にしないで。ところで、目的の人物はいるかい?」 ヤンに促され、ちょっとだけ顔を上げたルイズは会場を見渡す。 「…見たところ、いないわね」 「本当かい!?皇太子の顔を忘れてるとか、見間違えてるとかは?」 「それはないわ。あれほど美しい金髪の、凛々しい皇太子だもの。以前アルビオン旅行に 来た時、城で会ったのだけど、あれは忘れようがないわ」 そう言ってルイズは顔をちゃんと上げ、もう一度会場を見渡す。だが、金髪の凛々しい 若者というのはどこにもいなかった。 代わりに見つけたのは、長い口ひげが凛々しい黒マントの貴族。 「ワルド様?」 ルイズの声に、グリフォンをかたどった刺繍が施されたマントを纏う若い貴族は振り向 いた。 「…ルイズ?ルイズじゃないか!」 ワルドはちょっと驚いた顔でルイズ達の所へ駆け寄ってきた。 「遅かったじゃないか、一体どうしたんだい?僕らは今夜でアルビオンは最後だったんだ よ」 ルイズは、まずはスカートの端をちょっと持ち上げ礼をする。ヤンも後ろに控えて頭を 下げる。 「もうしわけありません。実は、スカボローからサウスゴータまでを旅して見聞を広めて いたのです。ワルド様は大使一行の警護ですか?」 「うん、大使として派遣されたド・ポワチエ将軍の警護をグリフォン隊が仰せつかったの だよ。まぁ、間に合って良かった。とにかく二人とも、こちらへ来てくれたまえ。大使を 紹介しよう」 そう言ってワルドは、ワイン片手に貴族と部下らしき騎士に囲まれて談笑している美髯 をたたえた四十過ぎの貴族、ド・ポワチエ将軍の前へルイズ達を連れてきた。 ルイズ達に気付いた将軍へ、ルイズとヤンは同じく礼をする。 「初めまして、将軍。私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 お目にかかれて光栄ですわ」 威厳ある、というより傲慢そうな空気を漂わす将軍も、肩の金ピカなモールを光らせな がら名乗った。 「これはこれは、このような異国の地でヴァリエール公爵のご息女にお会い出来るとは、 これも始祖のお導きですな。 私はド・ポワチエ。今回は陛下より大使の任を拝命しておりましてな…」 あとは貴族らしい、もったいぶった社交辞令と当たり障りのない話題が交換された。ヤ ンは派閥作りとか権力闘争とかが好きではなかったので、こういう社交場での作法にはう とい。 ヤンが退屈してアクビが出そうになった頃、ようやくルイズの口から本題が出た。 「ところで…この会場には皇帝陛下がおられないようですが」 オリヴァー・クロムウェルを指して皇帝陛下、と呼んだルイズに対し、将軍は不機嫌そ うに鼻を鳴らした。 「かの逆賊、オホン、もとい神聖皇帝殿は、執務が忙しいとやらで、この晩餐には出席し ておらんのですよ」 わざとらしく言い間違えた将軍に、ルイズもヤンも苦笑いしてしまう。 「それは残念ですわ。是非ウェールズ皇太子と共にお目通りしたかったのですが…」 ウェールズ皇太子。 その名を聞いたとたん、将軍の目が見開かれた。そして横のワルドも。 「ウェールズ皇太子、と共に…とは、どういうことですかな?まさか、かの凛々しきプリ ンスが生きておられると!?」 今度は聞き返されたルイズが目を見開いた。慌てて振り返りヤンを見るが、グータラ執 事も半開きの目を大きく見開いている。 ロンディニウムの道中、そこかしこで聞いた『ウェールズ皇太子生存』の情報。まさか トリステインに伝わっていないとは、二人には予想外の事だった。 ヤンがルイズにヒソヒソと耳打ちし、ルイズがコクコクと頷く。 ヤン、まさか…皇太子が生きてるのを知らないのかしら? らしいねぇ。これは意外だね、まさか公の場に姿を現してないなんて 教えてあげた方がいいわよね? うん。思いっきり胸を張って教えてあげると良いよ こほんっ、と小さな咳払いをしてルイズが改めて将軍に答えた。 「はい、生きておられるはずです。 この街へ訪れる道中、ニューカッスルでの戦闘に参加した兵士達から皇帝陛下と共に歩 く皇太子の姿を見た、という話を多数聞きました。また、皇太子を生け捕りにした部隊の 兵士からも証言を得ています。 ですので、この城に来れば、調印式や記念パーティにて皇太子に会えるものと期待して いたのです。 お会いになりませんでしたか?」 将軍は何度も目をパチパチと開け閉めし、次いで話を聞いていた部下の騎士達に目配せ する。将軍に振り返られた部下達も、困ったように首を横に振った。 ヤンとルイズも顔を見合わせて、どういうことだろうと首を捻る。 「少々、興味をひかれますな。詳しい話を聞かせて頂けますかな?」 ルイズは将軍に、スカボローとサウスゴータで集めた証言を語った。もちろんマチルダ ことロングビルに関する話は除いてある。 聞き終えた将軍は、後ろの騎士達も含めて、顎に手を当てて考え込み始めた。 「ふぅ~む、本当だとすれば興味深い話ですな…こちらでも少し調べておきましょう」 話し終えたルイズは、トリステインの将軍すら知らない情報を得ていたという事で、鼻 高々。同時に、王家の秘宝に関する情報が得られないと分かり、残念そうでもある。相反 する感情が入り交じる、かなり複雑な表情だ。 後ろのヤンは、落ち着かない様子で頭をボリボリかいている。 すすすっとルイズの横に立ったワルドが耳打ちした。 「大手柄だね」 ルイズは可愛くウィンクを返した。 そうこうしていると、騎士の一人が将軍に耳打ちした。将軍は「おお、もうそんな時間 か」と小声で呟く。 「申し訳ない、ミス・ヴァリエール。人を待たせてあるので、この場は失礼しなければな らんのです」 ルイズは、チョコンと愛らしく礼をした。 「こちらこそ、時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした。もしウェールズ皇太子に 会われましたら、よしなにお伝え下さい」 将軍も有益かもしれない情報を得て、満足げに頷いた。 「承知しました。ところで、今宵はどちらにお泊まりですかな?もしよければ、このまま ハヴィランド宮殿に留まりませんか」 この宮殿に留まる、そう勧められたルイズは慌てて首を横に振った。そんな事をしたら ロングビルを敵地に一人で取り残してしまうことになる。 正直、ヤンとロングビルが仲良くする姿は、ルイズには気に入らないとしか思えなかっ た。それが嫉妬だなんて、彼女は絶対に認めないが。とはいえ、学院長の秘書を危険に遭 わせようと思う程でもない。 「いえいえ、それには及びませんわ。こちらで宿をとっていますので。そちらに旅の共も 待っていますから」 「そうか、それは残念だね」 ちょっと興を削がれた将軍の横から、今度はワルドが尋ねた。 「ところで、今後の旅の予定は?よければ、我らと共にトリスタニアへ戻らないか?」 「今後の予定…ですか?え~っと」 ルイズは再びヤンとボソボソと言葉をかわす。 どうしようかしら、ヤン。 どうやら、このままロンディニウムに留まっても、皇太子には会えそうにないな そのようね。かといって、ここで諦めるわけにはいかないわ そうだろうね。でも秘宝の情報なら枢機卿や王女の方が早くて簡単だと思うよ それもそうか…それに、あまりここにいるとロングビルが危ないわ うん。必要な情報は得たと思うし、一度アルビオンを出よう そうね。それじゃ将軍と一緒にトリスタニアへ戻って、王家の秘宝を 待った。その前にタルブへ行ってシエスタを んじゃ、ラ・ロシェールへ送ってもらいましょうか だね ヒソヒソ話を誤魔化すように、コホンッと小さく咳払いして向き直るルイズ。 「あの、実はタルブへ行く予定なのです。ですので、ラ・ロシェールまで送って頂けると 助かりますわ」 「ほほう!タルブですか、あそこはワインの名産地ですからな。ラ・ロシェールの手前で もありますな。 では、タルブへ送りましょう。緊急伝令用の竜騎士を数騎連れているので、一騎をお貸 しするとしましょう」 「よろしいのですか?」 気前の良い将軍の申し出に、ルイズもちょっと驚いてしまう。 「なに、構いませんよ。どうせ明日には我らもこの地を離れるので、もはや急ぎの伝令も 必要性は少ないでしょう。一騎くらい構いませんぞ。 明日の朝、宿に迎えをよこしましょう。どちらにお泊まりですかな?」 「レンスター・インですわ。ベイズウォーター街です。ただ、平民向けの安宿ですので、 迎えの方にその旨お伝え願いますわ」 「平民向けの、宿…ですか!?」 意外な言葉に将軍が仰天してしまう。トリステイン屈指の大貴族であるヴァリエール家 の息女が平民向けの宿に泊まれば、それは驚きだろう。 「私は決して物見遊山の為だけに、この地へ来たわけではありませんわ。市井の噂話は、 やはり市井に留まらねば手に入りませんの」 自分の実力で手に入れた情報でもないのに、ルイズは誇らしげに語る。そんなルイズに 将軍は感心しきりだ。 「これはこれは、なんとも勇ましく機知に富むことですな。さすが、ヴァリエール家のご 息女だけはあります」 ルイズは将軍と、ワルドにも「トリスタニアで再会致しましょう」と別れた。ヤンも一 礼してルイズの後に従う。そして将軍は「公爵へよしなにお伝え下さい」というのを忘れ なかった。 城を出てからも、ルイズの鼻がちょっと高くなったように見えていたのは、恐らく内面 でふくらんだ矜恃が滲み出たためだろう。 そして、鼻高々な様子で馬車に乗り込むルイズ達を、ワルドは鷹のように鋭い目で城の テラスから見下ろしていた。 宿に戻ったルイズ達は、干し肉・ワイン・リンゴにスコーンをテーブルに乗せたロング ビルに出迎えられた。 「お帰りなさい。どーだったの?首尾は」 淑女の嗜みとして、舞踏会ではほとんど食事を取れなかったルイズは、スコーンとワイ ンを頬張りながら自慢げに語り出した。 「…なるほどね。でも、どうしてウェールズが会場に全く姿を現さなかったのかしら?」 窓を少し開け、双月が輝く星空を見上げながらワインを飲むロングビルは、当然の疑問 を口にした。 干し肉をかじるルイズも、うーむ~と呻る。 「そこなのよねぇ、分かんないのは。王党派の残存勢力をレコン・キスタに吸収するため にも、速やかにレコン・キスタの支配を国中に行き渡らせるためにも、レコン・キスタが 旧支配者である王家から認められた存在と示すためにも、皇太子の存在を国中に知らしめ なきゃいけないはずなの。 なのに、皇帝と一緒に歩いてるのを見たとかばっか。まるで幽霊みたいな扱いって、一 体どういう事なのかしら?」 壁に立てかけられたデルフリンガーも頭を捻る。どこが頭なのか、誰にも分からなかっ たが。 「う~ん、隠すんなら牢屋にでも閉じこめりゃいいし、隠さないなら堂々とすりゃいいの にな…やっぱ剣のおれにはわかんねぇな。ヤンよ、どう思う?」 尋ねられたヤンは、以前デルフリンガーと一緒に武器屋で買ったナイフでリンゴをむき ながら、のんびりと考えを示した。 「考えられるのは、いくつかあるよ」 ルイズもロングビルも、グッと前のめりになる。 「ウェールズ皇太子の状況は、つまり公の場に出れる状態じゃない…という事じゃないか な。つまり、レコン・キスタに本心から恭順していない、とかいうこと」 ルイズがポンッと手を打つ。 「あ、なるほどね!つまり、皇太子は脅されて無理矢理引きずり回されてるんだ!」 「うん、それもあるんだけど…」 むき終えたリンゴを切り分けて、ルイズとロングビルに配りながら、話を続ける。 「そこまでするかどうか分からないけど、洗脳。例えば、『誓約(ギアス)』という禁じら れた魔法があるらしい」 『誓約』という言葉に眉をひそめつつも、ロングビルが頷く。 「確かに、大昔に使用が禁じられた魔法ね。でも、もし『誓約』がかけられたら、眼を見 れば分かるらしいわ。魔法の光が宿るらしいから」 ルイズは頷きつつも、推理を続ける。 「ということは、『誓約』をかけたのがバレたら困るから、大勢の前には出せない…とか かしら?」 ヤンもリンゴを頬張りながら頷く。 「そういう類の話だと思う。他にも魔法じゃなく、薬物を使用したとか、いっそソックリ さんの偽物だとか、変装魔法『フェイス・チェンジ』を使ったとか、かな。 薬物を使われると厄介だなぁ。魔法じゃ探知出来ないし、ハルケギニアの医術や薬学で は洗脳を立証する事が出来ないよ」 「それだけなら、まだいいんだけどねぇ…」 ロングビルは、ワインでリンゴを流し込んでから言葉を続ける。 「実は、この食べ物を買いに行った時、街で妙な噂を聞いたのさ」 「噂?」 最後のスコーンを口に放り込んだルイズも、ナイフを布で拭くヤンも、双月の光で長い 緑の髪を煌めかせる女性へ注目する。 「クロムウェルの系統は、『虚無』」 瞬間、ルイズの目が見開かれた。 ヤンも信じられないという表情でロングビルを凝視する。 「ほ、本当かい!?」 聞かれた彼女は肩をすくめる。 「さぁね、なにせただの噂だよ。 しかも突拍子もない物さ…あの皇帝は死者を蘇らせる、とか言うんだよ?その力を持っ てレコン・キスタの貴族議会で総司令官に、そして皇帝に選ばれた、とね」 ルイズは驚愕の表情から、だんだん胡散臭げな表情に塗り替えられていく。 ヤンは腕組みして考え込む。 「死者の蘇生…そんな魔法あるのかい?」 ルイズが拍子抜けしたように、呆れたように答える。 「あるわけ無いでしょ。いくら伝説の『虚無』でも、突拍子が無さ過ぎよ」 「あたしもそう思うんだけどねぇ。で、デルフリンガーはどう?そういう魔法に覚えはあ るかい?」 と、問われたデルフリンガーの答えは、いつもと同じ。 「覚えてねぇなぁ」 予想通りの回答に、一同溜め息をついてしまう。 頭をボリボリ掻きながら、ヤンは推理を続けた。 「確かに『虚無』の線は薄いかもしれないけど、全くあり得ないワケでもないよ。君の妹 さんの例もあるし」 ティファニアの事を挙げられ、ロングビルも考え込む。 「今のところ、僕らは『虚無』について全くの無知だからね。最悪、ウェールズ皇太子す らも死体を魔力で動かした操り人形…という事も考えないと。 ただ、それだと僕はお手上げだなぁ。魔法は全くの専門外だよ」 「さすがに、そこまではないだろうけどね…」 ルイズもロングビルも、それぞれに推理を進める。デルフリンガーは、合いの手を入れ たりしながら聞き役に徹していた。 そんな彼等の姿を、特に窓の隙間から覗くロングビルを見つめる黒装束の姿がある。そ の人物は通りを挟んだ民家の屋根の上で、身を伏せたままルイズ一行の部屋の様子をうか がっていた。 しばらくして、黒装束は音もなく飛び去った――ハヴィランド城へ向けて。 ハヴィランド城、天守。 そこは城の主、オリヴァー・クロムウェルが執務室として使用していた。 「報告、以上であります」 「うん!ご苦労だったね!いやぁ、お疲れ様、下がって良いよ!」 黒装束の人物は、部屋の主に対し報告を終えて退室した。 報告を受けたのは30代半ばの男。高い鷲鼻に理知的な碧眼、カールした金髪を持ち、 豪奢な衣服とマントを纏っている。現在は神聖皇帝クロムウェルと呼ばれている。 そして皇帝の背後には、ローブをすっぽりと被った痩身の女性が立っている。 「聞いたかね?ワルド君!いやぁ、驚いたよ。まさか、マチルダ・オブ・サウスゴータを 発見するとはねぇ!念のため調査してみて大正解だ!!」 そしてデスクを挟んだ皇帝の眼前には、ワルドが立っていた。 鷹のように鋭い眼光が虚空を見上げる。 「サウスゴータ…たしか、4年前のエルフ事件で、モード大公投獄の際に新教徒狩りが行 われたという…」 「そう!そこの太守の娘だよ。ま、実際はもう少し複雑な事情があったんだがねぇ。昔の 話さ! 彼女は確か、土のトライアングルだったはずだよ。我らレコン・キスタの側に引き込め れば、非常に心強い味方になってくれるに違いない!さっそく接触を取るとするかな、う ん!」 「土のトライアングル!?」 マチルダが土のトライアングル。 この言葉を聞いた瞬間、ワルドの眼光が鋭さを増した。しばし顔を伏せ思索にふける。 しかる後、口の端が釣り上がり、唇の隙間から押し殺した笑い声が漏れだした。 皇帝が不審そうに目の前のトリステイン貴族を覗き込む。 「どうか、したのかね?」 尋ねられたワルドは、まるで長年の難問が解けたかのように晴れ晴れした顔で答えた。 「マチルダ・オブ・サウスゴータ。現在はトリステイン魔法学院学院長の秘書…そして、 恐らくは『土くれのフーケ』ですな」 その言葉に神聖皇帝も、背後の秘書も驚きの声が漏れる。 「間違い、ないのかね!?」 重ねて問う皇帝に、ワルドは自信を持って推理を示した。 トリステインで最近、王宮前で『ダイヤの斧』、魔法学院で『破壊の壷』と、立て続け に二件のフーケによる犯行が行われた事。だが即座に両方とも、森の中の廃屋で無事に発 見された事。トリステイン王宮でも事件の真相を調べたものの、何故無事に取り戻せたか 分からなかった事。 以上の事実をワルドは語った。 「私も捜査記録の詳細を見ましたが、その時は謎を解けませんでした。ですが…ロングビ ルがマチルダでありフーケなら、全ての説明が付きますな。 彼女は、恐らくは私の婚約者ルイズの使い魔であるヤン・ウェンリーの、情婦なのです よ。現に、今も危険を冒してまでヤンと共にロンディニウムに来ています。惚れた男に盗 んだ物を返したのです。 物証はありませんが、まちがいありますまい」 ワルドの推理を聞かされた皇帝は、少し呆気に取られていた。 そしてすぐに、「ぉ、おお、おお!」と感激の言葉を漏らしながら椅子を蹴倒し、ワル ドへ駆け寄り、彼の肩を力強く叩いた。あまりのオーバーリアクションに、さすがのグリ フォン隊隊長も圧倒されてしまう。 「す、素晴らしい!本当に、これは大手柄だよ!まさか、フーケを逮捕出来るなんて!わ が神聖アルビオン共和国最初の偉業としてハルケギニア全土に知らしめる事が出来るじゃ ないかっ!」 「閣下のご威光、さらに燦然と輝きますな」 と、皇帝のフーケ逮捕案に同意したワルドが、ふと首を傾げた。 「ですが…少々お待ち頂けませんか?」 「ふむ?何を待つのかな?」 「ここは一つ、私に任せては頂けませんか?」 「ほほぅ、何か妙案でもあるのかね!?」 「ええ、実は、ですね。そのヤンという男の事なのですが」 「ああ、君が報告してくれた、我らの策を見事に看破してくれた平民使い魔の事かい?」 ヤンの名を改めて出したとたんに、皇帝の精神衛生レベルは最高から最低へ一気に落ち 込んだようだ。 ヤンは2週間前、『アンリエッタ王女の恋文』事件を解決に導いた。というより、うま く王女を誘導して『ルイズ達に手紙を回収させる』という暴挙を回避した。おかげでトリ ステインとゲルマニアの同盟は、手紙の政治的処理を通じ強固となり、逆にレコン・キス タは文書偽造の濡れ衣をかけられた。 それに、もしルイズがアルビオンに潜入していれば、流れ矢にでも見せかけて亡き者と し、ヴァリエール公爵に叛旗を翻させる事も出来たかもしれないのだ。 10日ほど前に枢機卿へ進言した『姫の婚儀に出席する大使を乗せた親善艦隊に警戒す べし』というのも、見事に皇帝の策を看破したものだった。皇帝はトリステイン戦艦から の親善艦隊への攻撃を自作自演にて偽装するつもりだったのだから。10日後に派遣する 親善艦隊対して、どの程度の警戒をしてくるかは不明ながら、他の策を講じる必要が生じ たのは確かだ。 皇帝は彼の知略には感心した。が、ただの平民に軽くあしらわれたかのような不快感、 現在の肥大化した皇帝の自我には耐え難い物だ。 「ええ。かのヤンという男、先月トリステインに使い魔として召喚されたばかりです。ゆ えに、王家への忠義とかトリステインへの恩義とは無縁です。実のところ、他に行くあて もないからルイズの下で執事役に甘んじている…というところでしょう。 いえ、むしろ、あれ程の知謀の持ち主が単なる執事役で満足しているとは思えません。 また、先日の王女の手紙の件…捨て駒にされかかった彼は、トリステイン王家への不快感 すら抱いているでしょう」 顎に手を当てながら聞いていた皇帝は、フンフンと満足げに頷き続ける。 ヤンが実は『帰郷を泣く泣く諦め、立身出世に興味はなく、学院でルイズの執事として ノンビリ暮らしたい』と考えてるのは、さすがにワルドにも思い至らぬ点だ。だが、それ 以外は大体正解に達していると言えるだろう。実際、ヤンは内心でアンリエッタを「ラフ レシア」と評したくらいだ。 「故に、彼はアルビオンにて、我らレコン・キスタに力を貸す事に抵抗は無いでしょう。 彼ほどの人材、参謀としてでも側近として加える事が出来れば、我らの悲願は更に容易に 実現できます。 いえ、むしろ彼を重用する事で『平民でも力と功あれば報いる』と天下に知らしめる事 も出来ます。かのゲルマニアの如く、平民達の支持も得やすくなり、更に国力を伸張でき ます」 室内をクルクル歩き回りながらワルドの話を聞いてた皇帝は、最後にポンッと手を打っ た。 「そして!うん!かの平民使い魔の主は、君の婚約者ルイズ…というわけだね!」 「左様。彼女と結婚すれば、ヤンも自然とついてくる事でしょう」 「そして、彼の情夫であるマチルダも、だね!?土のトライアングルであり、『土くれの フーケ』として名をはせた大盗賊も、我らの同士となってくれるわけだ!!」 「御意。父君の名誉回復とサウスゴータ太守の地位を示せば、かの大盗賊も納得すること でしょう」 ワルドは、薔薇色の未来像に思いをはせる皇帝へ、恭しく頭を垂れた。 ここで、これまで部屋の隅でずっと黙って話を聞いていた秘書が、うん!うんうん!と しきりにワルドの策へ肯定の意を示し続けている皇帝へ耳打ちした。 「…ん?なんだね、シェフィールド君…ふんふん、ああ!なるほどね、うん。それはいい! 相変わらず君は聡明だなぁ!」 急に秘書と内緒話を始めた皇帝に怪訝な視線を向けるワルドに、話を終えた皇帝が、輝 くほどに明るい笑顔を向けた。 「君の策に乗ろうじゃないか!ミス・ヴァリエールとの婚儀、見事成立させたまえ!もち ろん協力は惜しまない! かつて僧籍に身を置いていた者として、若い君たちの門出!今から始祖ブリミルの名の 下に祝福させてもらうよ!」 「はい。あの愛らしい姫君と、幸せな家庭を築く事を約束致します」 再び深く頭を垂れたワルドの顔は、純粋な言葉とは裏腹に、邪気をはらんだ笑みに歪ん でいた。 「そして、こちらでも別の策を講じるとしよう!ついては君に一つ頼みがあるのだが」 「はい。閣下の御為ならば、なんなりと」 皇帝とワルドの密会は、その後も深夜まで続いた。密会終了後、ワルドは誰にもその姿 を見られることなく、風のように自室へと戻った。 次の日の早朝。 ルイズ達はスカボローから乗ってきた馬と荷馬車を二束三文で売り飛ばし、ハヴィラン ド宮殿で将軍が貸してくれた風竜に乗り込んだ。 急速に眼下へ小さくなるロンディニウムの街並み。森林を飛び越え、一気に後方へ遠ざ かっていくアルビオン大陸。 ルイズは若く逞しい竜騎士のすぐ後ろで、雲の合間に見えてくるはずのハルケギニア大 陸を探している。その胸にはデルフリンガーが抱かれ、話し相手になっていた。ロングビ ルはヤンの左で、同じように遠ざかるアルビオン大陸を眺めていた。ウエストウッド村の 妹を想い、故郷に後ろ髪をひかれているのかもしれない。 どう考えても浮遊している理由が分からない大陸を眺めながら、ヤンは今までの事や自 分の立場について思い返す。 かつて自分は星の海を巨大な鉄の船で渡っていた。 意に反して軍人として功績を重ね、望まぬ出世を重ねていた。 出来すぎな程の養子と美しい妻、そして有能で楽しい部下に囲まれていた。 民主共和制を守るため、圧倒的不利な戦況で戦いを重ね、どうにか負けなかった。 苦難の末、皇帝ラインハルトとの和平交渉にまでこぎ着けた所で、暗殺された。 そう、そのはずだ だが、今はどうだ 自分は雲の間を風竜で渡っている。 意に反してルイズに使い魔として召喚され、執事として雇われている。 背後のルイズと左のロングビル、そして学院の平民達や貴族の子弟達に囲まれている。 トリステイン王国を守るため、アルビオンで情報収集をしている。 そしてこれからタルブでシエスタと合流しようとしている。 一体、どっちが正しい自分なのだろうか いや、本当に自分は、自由惑星同盟にいたのだろうか? もしや…全ては召喚された際にすり込まれた偽りの記憶ではないのか!? 生死の境を彷徨った時に見た、ただの妄想ではないのか? 妄想?偽りの記憶?・・・どっちが!? ヤンの背に冷たい汗が流れる。 慌てて上着の中の銃に手を触れた。自分と共に召喚された、ハルケギニアでは絶対にあ り得ない技術で作られた、引き金を引くだけでエルフすら難なく殺せるブラスターを。自 分の召喚前に関する過去が偽りのものでないと確かめるために。 上着の中に、確かにブラスターは存在した。ヤンの体温で暖められた、そして硬い感触 が指先に触れる。同時に左手のルーンが光だすのが分かる。士官学校以来、気にした事も ないはずのブラスターの構造と使用法が頭の中に流れ込み、身体が羽のように軽くなるの が分かる。 どちらも、本当の記憶だ。 ヤンは頭を振り、脳裏に浮かんだ不安を追い払う。だが、自分自身に対する疑念は、ま るで影のように付きまとう。 ふと彼の左肩に、何かが触れた。 左を見ると、左肩に長い緑の髪がかかっている。 ロングビルがヤンの肩に頭を乗せていた。 左腕で細い肩を抱き寄せる。 フレデリカを愛してる。 でも、今はマチルダの肩を抱いている。 僕は…どうすればいいんだろう ヤンの頭に浮かぶのは、オリビエ・ポプランとワルター・フォン・シェーンコップ。二 人はイゼルローン要塞では女好きの双璧で、関係を持った女性の数は「いちいち覚えてい ない」とか、ベッドの上の撃墜王とか言われていた。 彼等を頭に浮かべたものの、彼等がどうして複数の女性と関係を持つ事が出来たのか、 は思い浮かばない。ヤンの頭脳は、その方面の策略には全く向いていなかった。 ヤンが人類発祥以来の決して解けぬ問に頭を悩ましていると、背後のルイズが声を上げ た。 ヤンとロングビルも風竜が向かう先を見る。そこには緑の海が広がっていた。広大な草 原が陽光に輝き、駆け抜ける風が波のように草花の上を渡る。草原の彼方にある山の斜面 には、規則的に並んぶ背の低い樹木が見える。ワインが特産と言うだけあり、ブドウ畑が 広がっている。 風竜は草原を越え、村の上空をしばらく旋回してから、律儀に村の入り口へ着陸した。 「では、小官はトリスタニアへ帰還致します!」 ビシッと敬礼する竜騎士へ、ルイズは礼を言いつつ2通の封書を手渡した。 「これは枢機卿と父さま、ヴァリエール公爵への手紙です。急ぎ届けて下さい」 「はっ!」 竜騎士は、ルイズ一行がアルビオンで収集した事実をしたためた報告書を入れた封書を 胸に風竜へ飛び乗った。もちろん、ウエストウッド村やティファニア等に関しては除いて ある。 ルイズとロングビルは、飛翔する風竜へ手を振った。 「おーい、ヤンよ。なにをボーッとしてんだ?」 風竜から降ろされた荷物の上のデルフリンガーが、立ちつくすヤンを不審がる。 遠くの空へ消えていく竜騎士を見送った二人も、村の入り口で突っ立ってるヤンに気が 付いた。 彼は、村の入り口に立つ立て札をジッと見ている。 ルイズは彼の背をツンツンつつく。 「ちょっと、ヤン。何ぼんやりしてるのよ?」 何の反応もない。立て札に見入ったまま動かない。 ロングビルも立て札を見る 「これがどうかしたの?…えっと、『ようこそタルブへ』。それと、その下に、何か書いて あるわね・・・え…え?えっ!?」 ロングビルも、まるで幽霊を見たかのような表情で看板を凝視した。 「なによ二人とも、この立て札がどうかしたの?」 と言ってルイズも読む。そこには確かに『ようこそタルブへ』という文が記されてた。 ただし、その下にもう一文が記されている。 「何これ、なんて書いてあるの?読めないわよ…て、え…ま、まさかっ!?」 ルイズの目がまん丸に見開かれ、両手が口を覆う。 3人の背中が邪魔で看板が読めないデルフリンガーが、抗議の叫びを上げる。 「おーい!一体なんなんだよ?何が書いてあるんだよ!」 長剣の問に、ヤンは震える声で答えた。 「『ようこそタルブへ 道に迷った人は、オイゲン・サヴァリッシュをお尋ね下さい』」 「は?道に迷ったって…道案内の看板か?」 伝説の剣には、何のことだか分からなかった。 左右からヤンを見る女性達にも、何の事だか分からなかった。 ただ、それがあり得ない文だというのは、一目で良く分かった。 何故なら、それは二人には読めないが、ヤンには読める文字だったからだ。 「・・・何で、なんでこんな所に、この文字が・・・」 それは、『破壊の壷』表面に記されていた文字であり、ヨハネス・シュトラウスの手記 に使用されていた文字だった。 つまり、銀河帝国の公用語。 第十七話 昔と今と END 前ページ次ページゼロな提督
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6302.html
前ページ次ページ日替わり使い魔 ――ルイズは夢を見ていた。 フェオの月第三週、エオローの週第二曜日、ユルの曜日。春の使い魔召喚の儀式に臨む彼女は、期待に胸を膨らませていた。 魔法が使えず、何を唱えても失敗して爆発ばかり。挙句についた二つ名は『ゼロ』。魔法成功率『ゼロ』のルイズ。いくら座学が優秀でも、いくら貴族としての礼儀作法を完璧に修得しても、魔法が使えなければ貴族足り得ない。 無論、そんな彼女を認めてくれる者は、どこにもいなかった。 だが、それも今日まで。自分は今日、使い魔を召喚するのだ。 メイジを見る時は使い魔を見よ――その格言が示す通りならば、召喚した使い魔が強大であれば、それすなわち自身の才能の照明となるのだ。 ならば、誰もが認める使い魔を召喚できれば、自分は『ゼロ』ではなくなる。馬鹿にされ続けていた惨めな日々は、もう終わるのだ。 果たして、彼女が呼び出した使い魔は―― 「やった……やったわ……!」 その使い魔を見て、ルイズは感動に打ち震えた。それは一言で言えば、亜人であった。 青い肌の筋肉質な上半身に乗っかっているのは、立派な髭をたくわえた歴戦の兵士もかくやといった厳つい顔だった。だがその頭からは山羊の角が生え、下半身は紫の毛並みの雄牛。その上、背中からはドラゴンのような翼が生えている。 呼び出された亜人は、バトラーと名乗った。バトラー……執事か。公爵家の三女の使い魔になるのに、なんと相応しい名前だろう。 その使い魔を見て、周囲からも驚きの声が上がる。 「すごい! ルイズがとんでもない使い魔を召喚したぞ!」 「もう『ゼロ』なんて呼べないわね! おめでとう、ルイズ!」 「ふふ……負けたわ、ヴァリエール」 「さすが」 彼らは――仇敵のツェルプストーや、普段口を開かない青髪のクラスメイトすらも、「すごい」だの「さすがだ」だのと口々に褒め称え、喝采を上げた。 そうだ。これでもう『ゼロ』じゃない。これから私の、栄光に満ちた偉大なるメイジとしての道が、始まるのだ。 「ありがとう……みんな、ありがとう……!」 ルイズは涙を流し、自分を褒め称えてくれるみんなに感謝した。 だが――ルイズは気付く。 そのクラスメイトの中に、青紫色のボロを身に纏った、どこかで見覚えのあるような平民が混じっていることを。 彼はにこやかに笑い、口を開いて―― 「ザメハ」 それはなぜか男の太い声ではなく、鈴を鳴らしたような可憐な女性の声であった。 「ひゃうわっ!?」 いきなり眠気の一切が吹っ飛び、ルイズは素っ頓狂な声を上げて布団から飛び起きた。 「あ、起きたねルイズ」 「失われた古代の目覚めの呪文、成功したようですわね」 「ああ。これで明日から、子供たちを起こすのも楽になりそうだ」 「いやですわ、あなたったら。楽することばっかり」 「え!? え!?」 横から聞き慣れない男女の声が聞こえ、ルイズはわけがわからないままそちらに顔を向けた。 するとそこには、青紫色のボロいターバンとマントに身を包んだ、いかにも平民っぽい黒髪の男。そしてその隣に、小奇麗な白いドレスを着た、いかにも淑女といった物腰の青い髪の美女。腰には杖を差している。 美女の手には、ボロボロになった古ぼけた本があった。何かの古文書だろうか――いやそんなことより。 「だ、だだだだ誰よあんたたち!?」 「いや誰って……昨日、君に召喚された使い魔のリュカだけど」 「へ? いや、私の使い魔はもっとこう……」 そうだ。確か、もっと立派な使い魔を召喚し、みんなから拍手喝采の嵐……あれ? そうだったっけ? リュカの言葉に、ルイズは直前まであった記憶が急にあやふやなものに感じた。そういえば、みんなに認められるほどの使い魔と言うが、何を召喚したんだかよく覚えてない。ドラゴンだったような、亜人だったような…… 「もしかして……夢?」 「すっごく幸せそうな寝顔だったんで、起こすのが悪い気がしたんだけどね」 「ああああ……」 申し訳なさそうなリュカの言葉に、ルイズはようやっと現実に引き戻された。 始祖様ステキな夢をどうもありがとう。彼女はベッドの上でがっくりとうなだれ、呪詛を吐くような気分で始祖に感謝の言葉を贈った。 「あ……」 と――そこで彼女は、急速に思い出されてきた昨日の記憶と共に、一つの疑念が心中に浮上してきた。 彼女はガバッと顔を上げ、本物の自分の使い魔――リュカを見上げる。 「そうよ! あんた! 昨日の! 昨日のアレ! い、一体何!?」 「昨日の?」 「帰るとか言って、突然消えてっちゃったアレよ! 何なのよ、アレは! 見たことも聞いたこともないわよ!?」 「ああ、ルーラね」 問い詰められ、リュカは大したことでもない様子で頷いた。 「あれは移動用の呪文で、一度行ったことのある町や村とかに、一瞬で行き来できるやつなんだけど……こっちには、そういうのないの?」 「え……何その便利魔法? もしかして、先住魔法?」 「先住魔法ってのが何なのかわからないけど……あ、そういえば忘れてたけど、これって失われた古代呪文だったんだっけ。まあどのみち、こっちの呪文とハルケギニアの魔法とは体系が違うみたいだから、ルイズが知らないのも無理はないか」 「…………」 リュカの説明に、ルイズは開いた口が塞がらない。魔法の体系が違うということは、話半分に聞いていたとはいえ、昨晩話してもらったことなのだが――まさか、ここまで異質な魔法まで存在するようなものだとは、思っていなかった。 疑うにも、昨晩実際に目の前で見せられたこともある。まあ、とりあえずカラクリがわかったのであれば、何も言うまい――興味はあるので、後できっちり話は聞かせてもらうが。 「と、とにかく――リュカ!」 ルイズは気を取り直すため、コホンと一つ咳払いした。そしておもむろに、ビシッ!とリュカに指を向ける。 「昨日も言ったけど、あんたは私の使い魔なの! もう勝手にいなくなるのはダメ!」 「そんなこと言っても、僕にも仕事が」 「口答えを許した覚えはないわよ!」 「えー」 主人の威厳を示そうと、厳しくリュカを縛ろうとするルイズ。そんな彼女に、リュカは困ったような様子で頭を掻いた。 と―― 「まあまあ……そう興奮なさらないで」 そこで横から、それまで黙って二人のやり取りを見ていた女性が、割って入ってきた。 ルイズはそこでようやっと彼女の存在を思い出し、訝しげな視線を向ける。 「そういえば、聞くの忘れてたけど……あなた、誰?」 少なくとも、平民ではなさそうである。だが、貴族の女性がこんな早朝に自分の部屋に、しかも使い魔の平民と一緒にいる理由がわからない。 しかしルイズのその問いに、女性は何ら臆することなく、スカートの両端をつまんで優雅に一礼すると―― 「初めまして。私、リュカの妻のフローラと申します。今日は多忙な夫に代わり、一日あなたの使い魔を代行させていただくことになりました。よろしくお願いしますね、ルイズさん」 「……………………はい?」 その丁寧な自己紹介で告げられた内容を、しかしルイズはすぐに理解することができず、たっぷり十秒ほどの間を空けた後で間の抜けた声を上げた。 ――その後、ルイズはフローラに着替えを手伝ってもらった。 リュカは、フローラによって部屋から追い出されている。 ルイズとしては彼に手伝わせるつもりだったのだが、まあ確かに召使い――もとい使い魔とはいえ、男にやらせることではないかもしれない。こういうのは通常、召使いに手伝わせるにしても、同性にやらせるものなのだから。 (ってゆーか、何この夫婦? わけわかんない……) 夫の方は、平民でもここまでみすぼらしくはないだろうと言うほど、汚らしいボロを身に纏っている。かなり年季の入ったその身なりは、どれほど長い間風雨に晒されていたのか、ルイズには想像もできない。 その一方で、妻の方は至って綺麗なものであった。服装は元より、その容姿さえもが可憐で美しい。物腰も優雅で育ちの良さを伺わせ、どう見ても貴族にしか見えないほどである。 そんな二人を『夫婦』という等号で結びつけるなど、ルイズにはとても無理なことであった。いくら本人たちにそう言われたからとて、簡単に信じることなどできない。からかわれたと思った方が、まだ納得できる。 が――たったの二言三言とはいえ、仲睦まじく会話を交わすその姿には、とても割り込めないものを感じた。 それが芝居によるものか、本物の恋愛感情によるものかなど、まだ生まれて十六年しか生きてない――しかも恋愛経験など皆無の――ルイズには、到底わかりようもないことであった。 「…………知恵熱出そう」 「はい?」 「ううん、なんでもないわ」 「そうですか? はい、これで終わりです」 フローラに言われて自分の体を見下ろすと、なるほど確かに着替えは終わっている。なかなかの手際であった。 その後部屋を出たら、そこで待っていたリュカが何をしていたかというと―― 「うん。確かになかなか格の高そうなモンスターだね」 「そうでしょう? 違いがわかるのね、あなたって」 「まあ、これでも魔物に対してはちょっとした目を持ってるし」 「あら。面白いこと言うのね、あなた」 などと、ルイズの仇敵たるキュルケと、使い魔をダシにして戯れていた。 それを見て、ルイズは当然―― 「何をやってるのよ、あんたはーっ!」 「おぐぅっ!?」 ――額に青筋を浮かべて叫び、リュカの股間を背後から問答無用で蹴り上げた。 自身の『切ない部分』を蹴り上げられ、リュカは顔を青くして悶絶する。 「あらあら。元気ですわね、ルイズさんは」 悶絶する夫を見ても顔色一つ変えず、フローラはそう言ってほほ笑んだ。 そんな視線の向こうでは、フレイムが仲間になりたそうに倒れたリュカを見ていた。 ――それからリュカは、ルイズが怒鳴りながら必死に引き止めるも、のらりくらりとかわしてルーラで帰って行ってしまった。 その際彼は、「夜には迎えに来るから」と言ってフローラを抱き寄せて口付け――いわゆる『いってきますのキス』をし、傍で見ていたルイズとキュルケに砂糖を吐かせたものである。 「うわ……いくらなんでも、人前で惜しげもなくやる?」 「微熱どころの熱じゃないわね……はいはい、ごちそーさまごちそーさま」 ちなみにそのせいで、キュルケは使い魔ネタでルイズをからかうのを忘れてしまったのだが……まあそれはどうでも良いので割愛。 その後キュルケと別れたルイズは、「自分の使い魔の妻」という微妙な立場の女性と共にアルヴィーズの食堂で朝食を摂った。 動物や幻獣などの使い魔を期待していた彼女は、自分の足元で使い魔に餌をあげるという光景を夢想していたものだが、さすがに淑女然としているフローラ相手にそんなことはできない。 見た目貴族っぽい雰囲気を持つ彼女にそんなことをしたら、自分の品位が疑われる。そんなルイズの心境も知らずに「美味しいですね」とほほ笑むフローラに、ルイズは引き攣った笑みを返すしかできなかった。 ――そして、教室―― 「あらあら」 ルイズと共に入るなり、フローラは目を丸くして驚いた。先ほど目にしたキュルケのサラマンダーを筆頭に、バグベアー、スキュアなど、魔物にしか見えないものが数多くいたからだ。 「普通の小さな動物さんもいっぱいいらっしゃるんですね……ルイズさん、もしかしてこの子たち全部?」 「ええ。使い魔よ」 「まあ……」 フローラの問いに短く答えたルイズの言葉に、彼女は感嘆の声を上げた。 その後、ちゃんとした使い魔を呼べなかったルイズに野次が飛ぶ――かと思いきや、彼女と一緒にやってきたのは昨日の平民の使い魔ではなく、マントこそ着用していないものの、杖を持つ貴族のような物腰の女性。 これにはさすがにどう野次を飛ばしたら良いのかわからず、クラスメイトたちは大いに戸惑った。そんな彼らに、フローラは優雅に一礼して本日三度目となる自己紹介をすると、周囲に更なる喧騒が巻き起こる。 ちなみに二度目の自己紹介の相手であったキュルケは、興味深そうに様子を見ているのみだ。 (……私だって、どうしたらいいのかわかんないわよ!) その渦中にいるルイズは、そんな周囲の戸惑いを敏感に感じ取り、胸中で叫びを上げた。 そんなルイズの心境を知ってか知らずか、フローラは彼女に疑問を投げかける。 「あの、ルイズさん……見たところ、ここにいる人間は全員メイジのようですが、もしかして人間の使い魔っていないのですか?」 「そんなのいるわけないでしょ。普通は人間以外のものが召喚されるものなのよ。ったく、もう……私だって平民なんかじゃなくて、もっと皆の注目を独り占めできるようなすっごい使い魔を召喚したかったわよ……」 「注目を独り占め、ですか? 今がまさにそうだと思いますけど」 「これは違うの! 私が欲しかったのは、こんな注目じゃ……はぁ、もういいわ」 からかってるのか本気なのかいまいちわからないフローラのコメントに、ルイズはため息をついて自分の席へと向かった。 フローラはその後ろについて行き、ルイズの隣に腰掛ける。あからさまに落胆の色を見せる彼女を視界に収めながら、彼女はぽつりとつぶやいた。 「皆の注目を独り占めできるような使い魔……ですか」 すぐ隣にいるルイズにさえ聞こえないぐらいの小さなつぶやきの後、彼女は「んー」と考え込んだ。 ――やがて授業時間を迎え、教室に女性教師が入ってきた。 彼女は『赤土』のシュヴルーズ。教壇に立つと生徒たちをぐるりと見回し、使い魔たちの姿を確認するとにっこりとほほ笑む。そして社交辞令的な挨拶を終え、フローラに目を留めると、彼女による四度目の自己紹介がなされた。 シュヴルーズも生徒たち同様に驚きはしたが、人間の使い魔を召喚したとなればそういうことも有り得るとでも思ったのか、さほど大袈裟な態度は取らなかった。 授業が始まると、フローラは熱心に授業を聞き始めた。 リュカは「自分の住んでいる場所とは魔法の体系が違う」と言っていたが、彼女はその違いに興味があるのだろうか? 時折ルイズに質問しながら、ふんふんと頷きつつ聞き入っている。 「ルイズさん、トライアングルとかスクウェアとかって何ですか?」 「それはね……」 フローラの質問に、ルイズは律儀に答える。 四つの系統、足せる属性の数、それによって決まるメイジのランク――その説明に、フローラはあからさまに瞳を輝かせた。 「……ということよ」 「そうなんですか……なかなか興味深いですわ」 「ミス・ヴァリエール! 授業中の私語は慎みなさい!」 が――そんな会話をシュヴルーズは聞きとがめた。 そして彼女は、罰としてルイズに錬金魔法の実践を命じ――しかしそれは、教室中の生徒の反対の嵐を受けることとなる。 だがそれは、かえってルイズの対抗心に火をつける結果になってしまった。彼女はムキになってシュヴルーズの指示を承諾し、教卓の上に置かれた石に向かい合った。 ――後の結果は、大方の予想通りである。 ルイズの起こした爆発に教室はパニックとなり、阿鼻叫喚の地獄絵図が出来上がってしまった。 その中心で、騒ぎの元凶とその使い魔代理はというと―― 「ちょっと失敗みたいね」 「とても見事なイオでしたわ」 まったく悪びれもせずにズレたコメントを残していた。 「ちょっとじゃないだろ、ゼロのルイズ!」 「いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないかよ!」 「ってゆーかイオってなんだよ!?」 教室中からのツッコミの声が木霊した。 「「…………」」 誰も居ない教室の中、ルイズとフローラは黙々と片付け作業を進めている。 あの後、息を吹き返したシュヴルーズによって教室の片付けを命じられ、フローラと共に作業をしているところだった。魔法を行使しての作業を禁じられたが、元より魔法の使えないルイズには関係のないことである。 「……はぁ」 「どうかしましたか?」 「なんでもないわよ」 思わずこぼれたため息に、フローラが心配そうに声をかけた。だがルイズは、持ち前のプライドの高さから、その気遣いを跳ね除ける。 「ルイズさんって、凄い才能を持ってるんですね」 「……何言ってるのよ? 嫌味?」 「違いますよ」 訝しげに眉根を寄せるルイズに、フローラはにっこりと笑みを向けた。 「お尋ねしますけど、系統魔法って失敗したら爆発するものなのですか?」 その問いに、ルイズは首を横に振った。 普通は、失敗すれば発動しないものである。詠唱も間違ってないのに、発動するのは爆発のみ。失敗と一言で片付けるには、その現象は異常に過ぎた。 無論、彼女の周りの人間も、ただ何も考えずに失敗と決め付けていたわけではない。 他に例を見ないその現象を解明し、ルイズが魔法を使えるようになるため、父も、母も、姉も、そしてこの学院の一部教師も、書物を漁った時期があった。 が――皆は既に匙を投げてしまっている。諦めていない者は今はもう、ルイズ本人を残すのみであった。 「ルイズさんはきっと、自分の力の使い方を見つけてないだけだと思いますわ」 しかしそんなルイズに、フローラは笑みを崩さないままそう言った。 「私も魔法を使う者ですのでわかるのですが、さっき爆発を起こした時、凄い『力』の流れをルイズさんの中から感じました。 こっちの魔法の法則はまだよくわかりませんが……私が思うに、あれはたぶん、あなたの『力』が唱えた魔法の法則に収まりきらずに起こった――いわゆる暴発に類するものなんじゃないかと思います。 その杖についた手垢を見れば、ルイズさんが今まで、どれほど努力してきたかわかりますわ。でも、こっちの魔法に明るくない私では、ルイズさんの悩みを解決するだけの知識は持ち合わせてません。 ですが……あなたの中に、誰にも負けない才能が眠っていることだけは、間違いないと断言できます。 その才能が開花する時は、いつか必ずやってくるでしょう。それはもしかしたら、ルイズさんが望んだ形ではないのかもしれませんが……その才能は、ルイズさんが今まで積み重ねてきた努力に、きっと応えてくれるはずです」 そこまで言って、フローラは「だから、諦めないでくださいまし」と締め括った。 「あ、当たり前でしょ。誰が諦めるもんですか」 そんなフローラの励ましに、ルイズはそっぽを向いて唇を尖らせた。 が――そんな素っ気無い態度を取られたフローラは、しかしルイズが今どんな表情をしているかを悟り、くすりと微苦笑を漏らした。 「あらあら。褒められるのに慣れてないんですのね」 「うっさいわよ」 ルイズのその返答は、フローラの笑みを崩す効果足りえるものにはならなかった。 一方その頃グランバニアでは、リュカが王族としての正装に身を包み、チゾットの村長と会談するべく護衛を伴って山を登っていた。 魔物もいるにはいるが、大魔王が倒れて邪気が世界を覆うこともなくなったため、いたって大人しいものである。彼らは基本的に人前には姿を現さず、人とは関わらずにひっそりと暮らすのみだ。 ――そのはずなのだが。 「えっと……」 リュカがひとたび物陰に視線を向けると―― ――ミニデーモンが仲間になりたそうにこちらを見ている。 「……」 メッサーラが仲間になりたそうにこちらを見ている。 「…………」 はぐれメタルが仲間になりたそうにこちらを見ている。 「……………………」 メイジキメラが(ry ベロゴンロードが(ry 「…………………………………………」 おかしい――明らかにおかしい。 いくら世界を覆う邪気がなくなったとはいえ、こうまで簡単に懐かれることは、今までなかった。しかも懐く可能性がない魔物まで、好意的な視線を送ってきている。そもそも、戦闘すらしていない。 「……『ひとしこのみ技』は使ってないはずだけど」 なにげにメタなことをつぶやき、しきりに首を捻るリュカの右手では―― ――使い魔のルーンが、淡い光を放っていた。 前ページ次ページ日替わり使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9082.html
前ページトリスタニア連続殺人事件 ルイズ「私があなたを召喚したルイズです。『ミス・ヴァリエール』と呼んでください。 ここが事件のあったトリスタニアです。どういう風に捜査を始めますか?」 →ひと しらべろ ルイズ「誰を調べますか?」 →ミス・ヴァリエール ルイズ「私の何を調べますか?」 →おっぱい ルイズ「やめてください」 →ひとにきけ ルイズ「では、この辺りの人に聞き込みをしてみます。 ヤス! わた……『ルイズちゃんは最高!』だそうです」 ヤス「他に情報は無かったのか?」 ルイズ「ありませんでした」 ヤス「自演乙」 →なにか みせろ ルイズ「何を見せますか?」 →ぱんつ ルイズ「いつも見せてあげてるじゃないですか、エッチ」 ヤス「それもそうだな、グヘヘ」 →たいほ しろ ルイズ「あなたが逮捕されるべきでしょう」 ヤス「何で俺が逮捕されなきゃいけないんだ」 ルイズ「毎晩私にあんな事をしているくせに?」 ヤス「合意の上だろう」 ルイズ「駄目だこいつ。早く何とかしないと」 →よべ ルイズ「誰を呼びますか?」 →ミス・ロングビル ルイズ「なぜミス・ロングビルを呼ぶのですか?」 ヤス「もちろん太腿をすりすりするためだ」 ルイズ「ファック・ユー。ぶち殺すぞ、ゴミめ」 →ばしょいどう ルイズ「どこに行きますか?」 →ラブホテル ルイズ「まだ昼間ですよ」 →まほうがくいん ルイズ「では、魔法学院に向かいます」 ルイズ「魔法学院会議室です」 →ひと さがせ ルイズ「会議室には誰もいないようです」 ヤス「それじゃ会議室プレイをしようか」 ルイズ「君は本当に馬鹿だな」 →ひと しらべろ ルイズ「誰を調べますか?」 →ミス・ヴァリエール ルイズ「どうしますか?」 →なにか とれ ルイズ「何を取りますか?」 →ふく ルイズ「私が脱いだら、このSSが削除されますよ」 ヤス「それは困る」 ルイズ「期待してた奴ぷぎゃー」 →すいり しろ ルイズ「何を推理すればいいのかわかりません」 ヤス「事件についてだよ! 事件!」 ルイズ「事件って何ですか?」 ヤス「連続殺人事件だろ?」 ルイズ「そんなものは起きていませんが」 ヤス「え?」 ルイズ「それよりももっと重大な事件が起きているのです」 ヤス「何だそれは」 ルイズ「子供ができました。私とあなたの子です。責任取ってください」 ヤス「な、何だってー。そんな馬鹿な、避妊はしたはず」 ルイズ「タス、まだわからないのですか。ゴムに穴を開けておいたのです。見事な危険日中出しでした」 ヤス「オーノー。ていうか、殺人事件じゃなかったのか」 ルイズ「いいですか。よく考えてください。恐ろしい連続殺人事件よりも、新しい命が誕生する事。その方がとても素晴らしい事件じゃないですか」 ヤス「でもタイトルには『連続殺人事件』って」 ルイズ「すまん、ありゃ嘘だった」 ヤス「な、何だってー」 ルイズ「あっ、陣痛が!」 ヤス「えっ、もう!?」 ルイズ「ひぎいっ、陣痛イイ!」 ヤス「何てこった、事件は現場じゃなく会議室で起きてるんだ!!」 ルイズ「早くー、救急馬車ー」 →でんわ かけろ ルイズ「お前がかけろよ」 ヤス「サーセン」 ルイズ「ひっひっふー、ひっひっふー……あー、頭出てきたー」 才人『はい、平賀です』 ヤス「あっ、間違えました」 ルイズ「馬鹿野郎」 こうしてルイズは元気な双子を産みました。 ヤスとルイズはメディアに大きく取り上げられ、2人はめでたく結婚しましたとさ。 めでたしめでたし。 トリスタニア連続出産事件 終わり ルイズ「な……、何ですか、このゲーム……」 ロングビル「もちろん、この魔法学院を舞台にしたゲームですよ?」 ルイズ「いや、これはいくら何でも……」 キュルケ「ま、そういう反応が自然よね……」 ロングビル「何よー。退屈してる生徒を楽しませようと思ったのに。結構苦労したのよ、これ」 キュルケ(あなたは口出すだけで、作ったのは私でしょうが……) ルイズ「でもこれは酷いですよ……。何か出産しちゃってるし。『陣痛イイ!!』とか訳がわかりませんよー」 ロングビル「陣痛はイイッ!! のよ。私は知ってるわ」 キュルケ(そりゃエロ小説の中の知識でしょうが……) ロングビル「はあ……、こんな事がまかり通るのもこの学院が暇なせいよね……」 キュルケ(暇なのはあんただけよ……) ルイズ「やっぱりきちんとした教師がいないと……」 キュルケ「そうよねー。この学院にも早く教師が来るといいわねー」 ロングビル「まったくオールド・オスマンも何をしてるやら……」 キュルケ「あら? そういえばオールド・オスマンは?」 ルイズ「オールド・オスマンなら今日は早く帰ったみたいですよ。今日は大事な日なんだそうです」 キュルケ「大事な日?」 ロングビル「ああ……、そうか。以前オールド・オスマンが言ってたわね……」 ルイズ「知ってるんですか? 教えてくださいよー」 ロングビル「駄目。これはオールド・オスマンの大事な思い出に関わる事だから……」 ?「……お世話になりました」 守衛に挨拶をし、牢獄を後にする。 僕は今日釈放となった。 そして懐かしい人が目の前にいる。 オスマン「『ラ・ロシェール港の見えるこの場所で会おう』。そういう約束じゃったね。出所おめでとう」 ?「……オールド……オスマン……」 オスマン「ふふ……、久しぶりに会ったんじゃ。昔のように呼んでくれないか。なあ……、そうじゃろう、ヤス?」 ヤス「……もう一度……、呼ばせてもらえるのですか? ……ボス……」 オスマン「もちろんじゃとも」 ヤス「ボス……、僕は……ううっ……! ボス……!」 オスマン「おいおいヤス、何を泣き出してるんじゃ? ……さあ、行こう。ミス・アニエスも君を待っているぞ」 ヤス「……はい! ボス!!」 トリスタニア連続殺人事件 原作 ヤマグチノボル 開発 ちゅんそふと 製作 えにっく ヤス「ボスもせっかちですね。そんな性格だと女の子に嫌われますよ」 ヤス「かなり古い建物です。何でも昔外人が建てた物を買い取って改築したとか……」 ヤス「ボス、ここはラグドリアン湖じゃありませんよ」 ヤス「僕に脱げと言うのですか? ボスはまさか……」 ヤス「わ、わかりました……」 ヤス「ボス、見事な捜査でした。僕がアニエスに召喚された文江の兄です。妹達を死に追い込んだ、あの2人を許せなかったのです」 アニエス「その後は私が話します」 ヤス「アニエス! お前は逃げろって!」 アニエス「ヤスは黙ってて!」 ヤス「これで全ておしまいです。でも皮肉なもんですね、殺してからコルベールが後悔してた事がわかるなんて……」 ヤス「僕があなたの使い魔の真野康彦です。『ヤス』と呼んでください」 オスマン「……おお、そうじゃ、ヤス」 ヤス「何ですか、ボス?」 オスマン「君の勤め先を用意しておいたよ。メイジに魔法を教える学院なんじゃがね……」 前ページトリスタニア連続殺人事件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7284.html
前ページ次ページときめき☆ぜろのけ女学園 「そんなの嫌あああ!」 キリの発言に頭を抱えて狼狽するルイズ。 「ルイズ、ごめん……っ。そんなに嫌だった? もうしないよ。ね、落ち着いて」 その言葉にルイズは、今度は途端に目を見開いてキリの顔を正面から見据える。 「もうしないの!? そんなあっ!」 「だって嫌って……」 「違うのよ! そうじゃないのよ! キリが……、キリがキス上手だから、だから……っ!」 そう言うルイズの脳裏にはキリと多種多様な妖怪達とのキスシーンが次々浮かび……、 「あ゙ ー!!」 ……自身の想像に耐えられなくなり絶叫した。 「ルイズ、大丈夫!? どうしたの!?」 「ねえ、今までに何人とキスしたの!? 何回したの!? 誰としたの!?」 「え……、そんなのいちいち覚えてないよ」 「い……、いちいち覚えてない……。覚えてないほど……?」 衝撃に目眩を起こしたルイズ。ただでさえ不安定な樹上でそのような事になれば当然、 「ルイズっ」 「きゃああああ!」 ――ズザザザザザー 派手な音を立てて落下し、キュウリを手に反撃中のキザクラ・それを受けつつ後頭部の口でキュウリを食べているベニの背後の茂みに、脚だけ突き出した格好を晒した。 「な……、何なの」 「た……、助けなきゃ」 「あら?」 ふと気付くと、ルイズは前後左右もはっきりしない純白の世界に立ちつくしていた。 「キリ……? ねえ、どこ……?」 少し歩くと純白の空間が四角く切り取られていて、そこからかすかにキリの笑い声が聞こえてきた。 『ふふ……、あはは……』 「キリ!」 喜色満面という表情でその向こうに駆け込むルイズだったが、次の瞬間硬直する。 「あはは、ペロったら」 そこではキリ・ペロが激しくキスを交わしあっていた。 「ちょっ……、何してるの?」 ルイズの声に振り向いた2人はあっけらかんとした表情で、 「ルイズ」 「だってルイズはやだって言ったし」 「違……っ、そんな、やだ、やめて! 嫌ああああ!!」 「嫌ああああ!!」 絶叫と共に布団をはねのけてルイズは目を覚ました。 「おー、目が覚めた」 「あ……、あれ? 私……」 周囲をきょろきょろ見回し、ここが自室に敷かれた布団の上だという事を認識する。 「そうか、夢だったのね。あー、よかった……」 ほっと安堵の溜め息を吐いたルイズ。しかしその溜め息の理由に困惑する。 「ん? ……あれ? 何で? 何で夢でよかったの?」 ――ガラララ…… 「ルイズ! よかった、目が覚めたんだね」 するとそこに、おにぎりを山盛りにした皿を手にキリが部屋を訪ねてきた。 「キリ!!」 「お腹空いてるだろうと思って食堂行ったら、丁度ベニがおにぎり握ってて」 キリの背後から出てきたベニがルイズに軽く一礼する。 「え……」 「ルイズにお見舞いにって。ね」 「お口に合うかわからないけど……」 顔を接近させて微笑むキリに、はにかんだ表情になりつつベニも微笑む。 (何で二口女が……。まさか……) その姿に、ルイズの脳裏にキリが下のお口をベニの後頭部の口で激しく責められている光景が浮かんだ。 「そんなの嫌あああ!」 「ルイズ!?」 顔を真っ赤にして叫んだルイズだったが、キリの言葉に我に返る。 そこで自分が見せた**に気付き、いっそう顔を赤くして頬を押さえる。 「やだ、嘘、そんなわけないじゃない! 私おかしいわっ!」 「ルイズ……、顔赤い」 キリはそっと自分の額をルイズの額に当てて熱を測る。 「熱でもあるのかな」 (し……心臓がバクバクするわ!) 「ルイズ? 苦しいのか?」 そこへルイズの異常を察したらしく、ペロもキリの肩越しにルイズの様子を見る。 「!!」 その様子を見たルイズの心中で何かが焼かれ熱く膨らんでいった。 (え、あれ、やだ、何? ペロがキリにくっついてるだけで……。嘘、今まで気にした事無いのに) そんなルイズの心情を知ってか知らずかキリ・ベニは、 「熱があるならお粥にした方がいいかな?」 「そうだね。ありがとう、ベニ」 と親しげに会話していた。 (あ、あ、やだ、近付きすぎ!! 駄目……っ、これ以上焼いたらもちが焦げる!!) 「キリに触ったら嫌ー!! キリが他の子とくっつくのは嫌なのー!!」 凄まじい形相になって絶叫を上げたルイズに、一同は驚愕してルイズに向き直る。 「顔こわっ」 「ルイズ?」 (どうしよう。あたし……、あたし……、キリに恋してるんだわ……。女の子同士なのに……、でも……でも……) ルイズの想いはもう止まらない。 ルイズにはキリへの溢れる想いを彼女に伝える以外の選択肢は残っていなかった。 「キリが好きなの……っ! 独り占めしたいくらい大好きなの!」 「ルイズ……」 突然の告白に驚愕を隠せなかったキリだったが、そっと微笑むとルイズの顔を真正面から見据える。 「私も、いつも元気で明るくて笑顔のルイズが可愛くて可愛くて大好きだよ」 「キリ!」 そのままキリはルイズの顔に唇を接近させていく。 「いいとこなのにっ」 「しー」 見物の最中にベニに部屋を追い出されて不満げな声を上げるペロを、ベニが静かにさせて事の次第を2人に任せる。 一方、キリはルイズの鼻に「ちょこん」という擬音がよく似合うような軽いキスをした。 「はっ、鼻っ!」 「あはは」 鼻へのキスに不満げな表情のルイズは頬を膨らませていたが、 「ルイズ?」 激しく抱きついてその勢いのままにキリの唇を奪った。 「きゃーっ!」 「ルイズ、顔真っ赤」 自分で仕掛けながら照れのあまり絶叫したルイズの顎をそっと上げて、 「我慢してるのに可愛すぎて困る……」 先程同様に軽く、しかし今度は唇にキスをする。 「我慢しなくていいのよ! だ……、だって恋人同士になるんだから!」 そのルイズの言葉に、キリは突然ルイズから手を離して俯いて沈黙した。 「………」 「キリ? どうかしたの? え? あれ? 違うの?」 「……あのね、本当は言いたくないけど、でもルイズが大事だからちゃんと言うね」 「キリ?」 「ねえ、覚えてる?」 顔を上げたキリは心底辛そうな表情で、 「私と恋人同士になるって事は、ルイズも妖怪になっちゃうんだよ! 本当にいいの?」 (私が妖怪にー!?) 前ページ次ページときめき☆ぜろのけ女学園